恋色カフェ


「っ、な……んで」

「クリームが勿体無くなって」


まだ至近距離にある彼の顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。手首も掴まれたままだ。

心臓はドクドクと、激しく脈打つ。まるで、一気に酔いがまわったように。



「……彗」

「…………はい」

「さっき、店長って呼んだよね」

「、……」

「事務所を出た時も」


不敵な笑みの理由はこれだったか、と。



――――“お仕置き”


そう言われる前に逃げ出そうとは思ってみたものの、男の力で掴まれている手を容易に振りほどくことは出来ない。私は悔しくて、せめてもの抵抗にと、目を逸らしてみせる。




「よく考えたら、腹減ったよな」


まるで頭になかった言葉が耳を掠め、私は逸らした視線をまた、店長へと戻してしまった。


「夕方休憩の時、何か食べた?」

「……休憩室にあった、お菓子ぐらい」

「俺もキッチンに少しだけ様子見に行った時、味見した程度だな」


何なんだろう。もういつもの店長に戻っている。変化が目まぐるし過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている気分だ。


< 544 / 575 >

この作品をシェア

pagetop