恋色カフェ
『本当はそのまま連れ帰りたいところだけど』
アパートの階段を上りながら、そうため息交じりで言った店長は今、私の家の前で待ってくれている。私は急いで着替え、店長に言われた通り数日分の着替えやらなにやらを鞄に詰め込み、外へ出た。
「大丈夫、もういないから」
私の視線に気づいたのか、店長は開口一番、そう言った。
店長の後ろを歩きながら、改めて駐車場を見下ろす。
さっきまで、あの場所に秀人がいた。それは紛れもない事実なのに、何だか現実だったとは思えなくて。
現実だと思いたくないのか、突然のことで頭がついていってないだけなのか、それは自分でもよくわからない。
でも、夢であればいい、とは思わない。
もう、現実から目を背けたりはしない。
「直接店に行くけど、大丈夫?」
「……はい」
「今日は、事務所から出なくていいから」
時計を見れば、いつもタイムカードを押す、丁度1時間前を差していた。ここから車で行けば、十分間に合う。
私がやけに落ち着いているのが気になったのか、路肩にハザードをつけて停めていた店長の車に乗り込んでから、彼が私の顔を覗き込んだ。