記憶混濁*甘い痛み*

それでもそこかしこに愛しい妻の幻影をとらえ、その幻影と暮らす自分に自嘲する。


昨日病院で話した友梨は、昨日オレの指に触れ肌を紅潮させた友梨は、現実の彼女だろうか?


それとも、今オレに水をすすめてくれた彼女こそが本物の彼女なのか?


イヤ……違う。


友梨は…ここにはいない。

いる筈がない。


彼女は今、芳情院さんの『妻』で、オレは『最近よく話す機会が増えた知人』だ。


会話が増え見つめる時間が長くなり、そうするのが決まっていたかのようにして指先が触れた。


触れた指が磁石のような磁力をもち、ほんの数秒…離せなかった。


その一瞬友梨はオレのよく知る友梨になり、当たり前のようにオレを見つめキスを誘うように、無意識に薄く唇が開いた。


けれどオレが惑いを見せた隙に、友梨は深山咲友梨に戻り、指を解いて逃げるように走り去った。


彼女はオレを拒否し自分を軽蔑し、きっと芳情院さんに甘え心の中で許しを請う。


ふしだらな心の汚れを、夫である芳情院さんに抱かれ、愛される事で、清められたいと願うのかもしれない。




そしてオレは…心を乱す危険なオトコ、だ。
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