記憶混濁*甘い痛み*
「どうして……?」
友梨はベッドに敷かれたシーツの皺を気にしながら、狩谷のセリフをオウム返し。
どうして……?
どうしてだろう?
確かに、私とは何の関係もない…ただ、少し話す機会の増えた知人だ。
でも…どうしてなの?
6日姿を見なかっただけで、胸は痛み、ちょっとした瞬間に泣けてしまいそうになる。
どうして?
その涙は『何』を意味しているの?
自分の事である筈なのに、理性が感情にストップをかけている状態だという事に、友梨はまだ気付かない。
「……申し訳ありませんでした。先生、どうかこの事は、条野さんにもお兄様にも口外なさらないで?お願いです……」
切なそうに瞼を震わせる友梨を見て、狩谷は気付かれないように溜息をつく。