定義はいらない
5月に入り、あと2ヶ月に結婚式を控えている遥への答えを

いい加減先送りにできなくなった。

あれ以降会っていない彼女に連絡をするのが私だなんて

なんだか納得が行かなかった。

頼み事をしているのは相手の方なのに、

なぜ私が折れなきゃいけないんだ?

「もしもし。」

「久しぶり。」

「あのさ、結婚式のことなんだけど。」

「うん。」

「まずさ、なんであんたから連絡してこないわけ?おかしくない?」

「ごめん。なんか聞くの恐くて。」

「でもあんたが私に頼んだんだよね?」

「うん。ごめん。」

「……私、出ないことにしたから。」

「私が連絡しなかったから?」

「それもある。」

「……ごめん。」

「もう謝ってもだめ。決めたから。」

「……」

「勘違いしないで欲しいのは、私は遥の結婚を祝ってるってこと。
 でも、私は『結婚式』っていうものにあまり価値を置いてないの。
 私個人の結婚なら、
 役所に婚姻届を提出するだけでいいとすら思ってる。」

「……」

「私、夏には前から計画していた旅行があるんだよ。それをしたい。
 でも休みは何回も取れないし、お金にも底がある。
 私が価値を置いていない結婚式に出ろって言われても、
 それは私のことを逆に尊重されていない気がするんだよね。」

「その旅行は来年じゃダメなの?」

正論。

「遥は自分の結婚は生涯に一度でこれを人生の節目だと思っている。
 確かにそうだしそれは大事なことだけど、
 私にとってもこの夏は一度しか来ない。」

これも正論だって私は信じたい。

「だから私は自分の旅行に行く。ごめんね。」

電話越しに泣き声が聞こえる。

自分の手が震えている。

少し、『参加』に気持ちが傾く。

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