定義はいらない
「何?」

「絶対寒いのに。」

「歩いてれば大丈夫。」

私はおもむろにカメラをカバンから取り出す。

「おっ撮ってあげようか?」

一緒に撮ろうとは言えなかった。

閉館時間を過ぎた松本城のお堀の周りには誰もいない。

大学生の時、遥と来た時には一緒に松本城をバックに写真を撮ったっけ。

あの赤い橋の上でだ。

あの時撮ったポーズまではっきりと覚えている。

つい最近のことのようなのに、

時間は確かに過ぎ去った。

もうあれから4年以上も経ったのだから。

「うん。」

私は両手を上げてピースをする。

4年前と同じポーズ。

変わったのは肌の質だけじゃない。

中身もまた変わった。

「よし撮った。」

わざわざしゃがんで撮ってくれた写真を確認すると

満面の笑みの私がそこに立っている。

この顔は…

もしかしたら恋をしている顔かもしれない。

明らかに2月の時とは違った顔がそこにはあった。

「可愛いからよし!」

4年前と同じ感想を口にしてカメラをカバンにしまう。

「じゃあ寒いから、飯にしよう。」

「やっぱり寒いんじゃん。」

そう言って笑って肩に手を触れる。

冷たい。

「まあね。」

笑って2人で注射場に向かった。
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