定義はいらない
一次会が終わって外に出ると

四月の始めの風は容赦なく冷たかった。

胸のところがV字に開いたトップスを着た私はコートを前で合わせた。


暗い夜の中、電灯の灯りに照らされた桜の木は

心なしか怪しげに見えた。

柳の木ではないから、人を誘っているはずはないのに。

「桜花侍」と形容するくらい

桜の花びらの散り方は、

「ひらひら」という描写にしては、いささか潔すぎる。

お花見の季節はこれからなのに

散っていく花びらは木に何の未練もないようだ。

まだ花の盛りは過ぎていないのに、もったいないと私は思う。

だからかな。

桜の花は嫌いだ。


まだきれいだよ、

そんなに先走らなくても必ず散る日はくるんだから

もう少し花でいることを楽しめば?


心の中で話しかけていると

急に肩に温かさと重みを感じた。


「行こうか?」


二人でタクシーに乗り込んだ。
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