シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
そう、アランは本当に無理をしていた。

身体に触れる逞しい腕や胸から感じた体温は、とても熱かった。

冷えた自分の身体が徐々に温まっていくほどに。

きっと相当の熱があるに違いない。

それなのに皆に心配かけまいと、平気そうに振る舞って・・・。


医務室で倒れた時にはパトリックが傍に居てくれた。

あの時倒れる前、自分がしたことについて不安がっていたら、元気づけるように声をかけてくれた。

少しでも役に立てたことが嬉しくて、堪らず涙が零れてしまった。

パトリックは優しい・・・。

でも、それでも、嵐の後に感じていた心細さや不安はずっと消えないままでいた。

襲い来る眩暈と闘い、身体が負けた後、おぼろげに覚えているのは、焦ったようなパトリックの叫び声。


ソファに身を委ね、薄れ行く意識の中で途切れがちに聞こえてきた、声。

不意に頬に当てられた手の温かさ。

身体の奥に火が灯る様に、ジンと温かくなった。


――この手・・・この少し固い大きな手は・・・覚えがある――

確かめようと重い瞼をゆっくり開けると、アランの顔がそこに、すぐに手の届くところにあって・・・。

見下ろすブルーの瞳が優しくて、つい甘えたくなった。

傍に居て欲しくて堪らなくて。

だけど、すぐに立ち上がって行ってしまいそうで。

アランは忙しい身なのに、いけないと思うのに。ほんの少しでいいから引き留めたくて。

自然に指が動いて服の端を掴んでしまった。


それがあんなことになるなんて・・・。

あんなに酷い怪我をしていたなんて・・・。


塔から危険な香りがしたあの時、すぐに下ろして貰おうとしたけれど、決して、そうはしてくれなかった。

それどころか、却って負担をかけてしまった。

自分の体のほうが辛いはずなのに・・・弱った身体を気遣って・・・。

アランの優しさに、溢れる涙が止まらない。

あれくらいのことで倒れてしまった自分の身体が恨めしい―――


「エミリー様・・・?早く食べないと、料理長が息を切らして持って来てくれた、せっかくのこの温かいお粥が冷めてしまいます。今、エミリー様がしなくてはいけないことは、これを食べて、ゆっくり休んで、早く元気になることです」

優しく微笑みながら、メイはトレイを近付けてきた。


これはアランが食べるようにと、置いてくれたもの。

土鍋からはまだ温かな湯気が出ている。


「そうね・・・」早く元気にならないと、また心配をかけてしまう。

アランの負担には、もう、なりたくない。

それに、少しでも何か手伝いたい。

溢れる涙を拭いて頷くと、メイは嬉しそうに微笑んだ。
< 100 / 458 >

この作品をシェア

pagetop