シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「アラン様・・・お願い」

ベッドの上でクッションに身体を預け、か細い声で訴えてくるエミリー。

アメジストの瞳を揺らし、溢れる涙を隠そうともしない。


君が眠るまでここに居ようかと思ったが、そんな顔をされたら負けてしまうな・・・。

涙に濡れる頬に触れ、流れ落ちる雫をそっと掌で拭った。

「分かった・・・もう泣かなくても良い」

君の傍に就いていたいが、やらねばならぬことが山積みなのは確かだ。

明日からは片付けと被害調査に忙しくなる。


「メイ、後を頼む―――・・食事は、ここに届けるよう申しておく」

トレイの上で湯気を出すお粥を見て、お腹の虫が鳴りそうな顔をしていたメイ。

慌てて頭を下げると部屋を出ていくアランの背中を見送った。

パタンと扉が閉まる音に、一気に肩の力が抜けていく。

今までどんなに気が張り詰めていたか。

こんなに傍近くに長時間いたのは初めてのこと。

やはりあの方のオーラは凄い。


「エミリー様、アラン様の仰せの通りにしましょう・・お粥を・・・」

土鍋のお粥を給仕し始めたメイ。

その耳に、横からエミリーの小さな泣き声が聞こえてきた。

嗚咽を漏らし、顔を覆って肩を震わせている。

さっきよりも泣き方が酷い。


「エミリー様、大丈夫ですか?」

お椀をトレイの上に置き、震える肩に手を置くと、覗き込むようにして顔を近付けた。

「メイ・・わたし、なんてことを・・・アラン様は・・・」

途切れ途切れに聞こえる涙交じりの声。

「アラン様が何ですか?あっ、怖かったんですね―――?今日はいろんなことがありましたし・・・」

恐ろしい嵐のことや、その後の医務室での出来事。

それに危うく刃傷沙汰になりかけた塔の廊下と、ウォルターとの一件。あれには、今でも身体がぶるっと震えてしまう。

今日はいろんなことがありすぎて、エミリー様が疲れてしまうのも仕方がないわ。


「違うわ・・・アラン様は・・・随分無理を・・・」

俯いていた顔をバッと上げ、涙に濡れた瞳で見つめるエミリー様。

艶めくブロンドの髪をふわりと揺らし、アメジストの瞳は涙でゆらゆらと輝きながら揺れる。

不謹慎にも、女の私が見ても美しく、守ってあげたいと思ってしまう。これを男の人が見たら、さぞかし―――。

「大丈夫ですよ、きっと。アラン様は強いお方ですから。エミリー様と違って、少しの無理くらい平気です」

「でも、いくら鍛えていても、辛いはずだわ・・・わたしは、何て事を―――」

擦れた声で呟くと、再び顔を覆って俯いてしまった。


これは、暫くの間何を言ってもきっと駄目ね。

メイは震える肩をさすりながら、傍に居ることしか出来なかった。


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