シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「じゃあフランク、お先に失礼するよ」

「あぁ・・・すまんな。お疲れ様。」


若い医官がいそいそと上着を羽織って帰っていく。

あいつは最近結婚したばかりだ。

本当なら、もっと早く帰してやれるはずだったが、災害のせいでこんなに遅くなってしまった。

嫁さんは、心細い思いをしながら帰りを待っていることだろう。


医務室の時計を見上げ、ため息をつくと、フランクは再び治療室に向かった。


さっきからベッドの上の患者たちが痛そうにうめき声を上げている。

「そろそろ薬の時間か。今、痛み止めを処方するから、待っててくれ」

薬瓶を数種類棚から出し、慣れた手つきで混ぜ合わせていく。

あっという間に患者たちの体格に合わせた薬を作り、それぞれに飲ませた。


「しかし、遅いな。もう来られてもいい頃だが・・・」

ウォルターの知らせを受け、治療道具を並べたワゴン。準備万端整ったのに、当の負傷者がなかなか来ない。


――本当に、王子様には困ったものだ。

見た目は平気そうな顔をしていたが、あの傷はかなり深そうだ。

それにあの顔色は、熱もかなり高く、体力を激しく消耗している時のものだ。

「・・・そうそう、忘れていた。これを―――」

フランクは思い立ったように棚に手を伸ばすと、少し変わった色の薬瓶を取り出し、治療用具と一緒にワゴンの上に並べた。



しかし、今日は酷い一日だった。

彼女がいなければ、きっと今の時刻になっても、ここに負傷者が溢れかえっていただろう。

医務室の中の混乱を一声で収め、溢れる負傷者を捌き、問診を進めていった彼女。

気の立っていた彼らを収めた力はすごい。

それに、この問診票は的確で漏れがなく、素晴らしい。

少しは医学の知識があるのだろうか・・・。

とにかくその辺に居るような只の娘ではない。


”彼女の名はエミリー。異国の人だ。アランの塔に住んでいる。それ以上は、私も詳しく知らない”


あの時、彼女は何者かと尋ねた私に、短く答えてくれたパトリック。

王子様に抱えられ、部屋を出ていくのを見つめる瞳には、彼女を思う気持ちが溢れていた。

切ないような、もどかしいような、そんな心情が読み取れた。

そう言えば、あの時ごたごたしてしまって、お礼を言いそびれてしまったな。



―――ゴトンッ―――

静かな部屋の中、何かをぶつけたような物音が医務室の方から聞こえた。


「やっと、来られたか」

キラッと眼鏡を光らせると、フランクは医務室のほうへ急いだ。

「王子様、お待ちしておりました。こちらに・・・っ王子様!?」


医務室の扉の前、入ってすぐの場所で、アランが床に片膝をついて項垂れていた。
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