シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
執務室で報告書を作成していたパトリックは、突然の医官の訪問に、訝しげな顔をした。


―――医官がここに来るとは、珍しいな。まさか・・・嫌な予感がする。


「フランク、珍しいな。何か用か?」

入口で立ったままでいるフランクに、努めて明るく声をかけた。


フランクは静かに扉を閉めると、パトリックとウォルターの顔を交互に見つめた。

二人とも何かを感じ取っているのか、息を飲み、顔を凝視したまま言葉を待っている。

そんな二人が取り乱さないよう、静かな落ちついた口調で、努めて簡潔に話した。

「アラン様がお倒れになりました。今医務室で治療をしております。寝室にお連れする人手をお貸し願います」


その言葉に、椅子から弾けるように立ち上がったパトリック。

目を見開いて固まっていたウォルターを急かし、急いで医務室に駆け付けた。

扉を開けるのももどかしく、自分がかなり取り乱しているのが分かる。

治療室の扉を乱暴に開けると、小さな叫び声を上げた。

ひじ掛け椅子にぐったりと身をもたげて座っているアランの姿。


「王子様は傷による熱と疲労により、かなり体力を消耗されておいでです」

「アラン、私だ・・・」

傍に寄り、肩に手をかけた。

体は驚くほど熱い。眠っているのか、まったく反応がない。

隣では青ざめた顔のウォルターがしきりにアランの名を呼んでいる。


「パトリックか・・・すまんな。戻るまでもう暫くかかる・・・ウォルター落ち着け。騒がしい」

途中で深い息を吐きながら、絞り出すような声を出している。

苦し気に肩で息をする様子は見ているこちらも辛くなる。

「申し訳ございません」

窘められたウォルターが横で項垂れた。


奥のベッドの方では、患者たちが何事かと言いたげに、ざわめき始めていた。

「すまない、何でもない。君たちはゆっくり休んでくれ」

パトリックが奥に向かって声を掛けると、ざわめきが徐々に静かになっていった。


この様子、災害が起きたために、無理をして動いていたに違いない。

医務室に来たあの時には、すでに熱があったのだろう。

「アラン、報告書など後でいくらでも見ればいい。まず、体を治すべきだ。明日からの災害処理の指示は、私が引き受ける―――ウォルター、兵士を一名頼む」


皆の動揺を煽らないためにも人目につかないよう、最少の人数で運ばなければいけない。

考えた末、フランクが持ってきた担架にアランを乗せ、二人で運ばせることにした。


「パトリック、後を頼む・・なるべく早く復帰するよう努める。フランク、明日にはエミリーの診察を頼む・・・フランクもっと傍に、耳を貸せ。“・・・・”――良いか、分かったな」

「承知致しました。仰せの通りに」


命じ終えると安心したのか、目を閉じて眠りに就いた。
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