シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「エミリー様、おはようございます。医官が診察に参りました。宜しいですか?」

護衛の手がエミリーの部屋の扉を叩く。

フランクは、昨夜アランに命じられた通り、朝一で、ここアランの塔に来ていた。

ここに来るのは何年振りだろう。王子様がご病気にかかられた時以来だから、10年ぶりくらいか・・・。


「はーい、医官様。どうぞ」メイドが笑顔で扉を開ける。

「失礼いたします」入口で丁寧に頭を下げて部屋に入ると、部屋の中ほどにあるベッドの上では、エミリーがすでに身体を起こしていた。


朝日の当たる部屋の中、ブロンドの髪を艶々と輝かせ、柔らかく微笑んでこちらを見ている。

白く美しい肌は、蒼白だった昨日よりもピンクがかっていて、今朝は体調もよさそうだ。


「ご気分はいかがですか?」

ベッドの傍の椅子に腰かけ、早速問診を始めた。

「おかげ様で大分良くなりました」

「エミリー様、私洗濯物を置いてきますね。医官様、すぐに戻りますので、暫くお願いいたします」

籠を持って部屋から出て行こうと歩き出すメイド。


「――お待ち下さい。あなたには私の診察が終わるまで、ここに居て貰わないと困ります」

日頃から冷静だと言われている私が、こんな声を出すとは・・・焦ったような声を出したことに、気恥ずかしさが湧きあがる。

引き留められた当のメイドはキョトンとしている。

「あ・・あなたが居ないと、この方の診察ができないのです。お願い致します」

意味が分からないといったような風情で、エミリーと私を交互に見つめるメイド。

エミリーも首を傾げている。

「兎に角、こちらに来て下さい。お願いします」

「分かりました」

首を傾げながら、手で指し示した場所、ベッドの傍、エミリーの近くに立ってくれた。

昨夜耳元で王子様に命じられたことは、とても言えないが、このメイドが素直に私の言うことを聞いてくれて良かった・・・。


ホッと安堵の息を漏らし、早速エミリーの診察を始める。

眼鏡の奥を真摯な色に染め、触診をして脈を取り始める―――

「・・・もう大丈夫ですね。脈も正常ですし、顔色も良い」

一通りの診察を終え、聴診器を鞄に仕舞いながら、処方してきた薬を出した。

「あの・・・アラン様のお体は大丈夫ですか?」

アメジストの瞳を心配げに揺らし、問いかけてくるエミリー。

このまま隠し通せるはずもない。

話すなとは命じられていない。しかし、話しても良いのだろうか・・・

フランクは迷い、言葉を探した。


「王子様は、寝室で休養されております。この後、今から診察に伺います。では私はこれで・・・あ、あなたは、もうお仕事に戻って下さい。引き留めてすみませんでしたね」

鞄を持って立ち上がろうとする腕を、白い指に引き留められた。


「フランクさん、待ってください」
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