シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「アラン様、フランク様が診察に来られました」

廊下の突き当たりの部屋、警備兵の声が廊下に響く。

ここは塔の奥、アランの寝室。


「王子様、お加減はどうですか・・・あ、どうぞそのまま。横になっていて下さい」

起こしかけた体を再びベッドに沈め、アランは腕を差し出した。

その腕に巻かれた包帯を、器用な手が手早く巻き取る。

差し出された使用済みの包帯を背後から白い腕が伸び、受け取った。

そして、あたふたと消毒薬の準備をすると、フランクに渡した。

手際のよいフランクの手がピンセットと供に何度か空で止まる。

その度白い腕が慌てて受け取り、ゴミ袋に入れている。

ピンセットを白い腕に渡し、そのまま待っている手。

急いで鞄から出したガーゼと新しい包帯を、掌に乗せた。


「王子様、傷の経過は順調です。熱もまだありますが、随分下がりましたね」

その言葉に白い腕がホッと胸をなでおろした。

すると、フランクの手が再び目の前で止まった。

何かを必要としている。

何だろう・・・今度は、聴診器かしら・・?

迷った末、鞄から出して渡すとすんなり受け取られ、アランの診察を始めた。


脈を取っているフランクに、アランは話し掛けた。

「フランク・・・今朝は、昨夜申した通りにしたか?」

フランクはチラッと後ろを振り返った後、眼鏡の奥を悪戯ぽく光らせた。

「はい。仰せの通りにいたしました。御安心下さい。もう回復されております」

「そうか・・ならば良い」

「今度は王子様が元気になる番でございます。さ、これをお飲み下さい」

医務室で処方してきた薬湯を口元に近付け、ゆっくり飲ませた。

すると、フランクの言葉に安心したのか、それとも飲ませた薬のせいか、重くなる瞼に負けるように、ゆっくりと目を瞑った。

暫くすると聞こえてくる規則正しい静かな寝息。



「もういいですよ」

白い腕の前にあったフランクの体が、大きく脇に避けた。

急に開いた視界に、ベッドの上のアランがアメジストの瞳に映る。

まだ顔色が悪い・・・そうっと近付き、ベッドの上に投げ出されている、武骨な手に触れた。

昨日倒れた後、この手がずっと守ってくれた・・・怖いけれども優しい大きな手・・・。

綺麗に切りそろえられた爪・・・壊れ物に触れるように指で辿った後、そっと掌を重ねた。

目が覚めたら叱られるかもしれない、最悪城を追い出されるかもしれない・・・。

それでも、看病したい・・・傍について居たい。


「フランクさん、ありがとうございました。わたし、暫くここに居ます」
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