シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
アメジストの瞳に涙がみるみる溜まっていく。上着をぎゅっと手繰り寄せ、アランから逃げるように後退った。


―――アラン様、どうしてここに来たの?どうして迎えに来たの?



「アラン様・・・来ないで・・・」



「エミリー―――?」


パトリックは背もたれに深くもたれて脚を組み、不敵な笑みを浮かべてアランを見上げた。



「分からないかい?アラン・・・彼女は君に来てほしくないみたいだ」


「何があった?何をした?」




「・・・彼女に、愛を告げた」


アランの眉がピクッと動き、瞳に冷たい影が宿っていく。



「彼女は私を受け入れてくれたよ。だから私は、彼女を抱き締めて、何度もキスをした。それから―――」



――――ガタンッ!!



ソファが大きな音を立てて大きく動いた。

アランの手が素早く動き、ほんの少しの手加減を加え、パトリックの喉元に当てられた。本来なら敵を相手に繰り出される一撃必殺の体術の一つ。手加減をしなければ命のないもの。



「それ以上申すな!パトリックとはいえ、私は何をするか分からぬ」



早口で放たれる言葉は、静かな声だが、聞いたこともないような低い音の響きだった。瞳からは静かな殺気が放たれている。抵抗せず、されるがままのパトリックの顔が苦しげに歪んだ。



「アラン様、やめてください・・・お願い」



パトリックの喉元に伸びている腕を、震える両手で掴んで引っ張った。


―――声が震えていた。こんなに怖いアラン様を見るのは二度目。一度目は塔で剣を抜いた時。でも、何故か、あの時よりも今のアラン様の方が怖い。


「お願い、手を離してください・・・アラン様、お願い」


息が苦しいのか、パトリックの顔色がどんどん悪くなっていく。


「ゥッ―――ケホッ――ケホッケホッ・・・」

アランが手を離すと、パトリックが苦しげに咳き込んだ。


「パトリックさん大丈夫―――!!」


パトリックの様子を見ようとして、駆け寄ろうとしたら、ウェストに腕がまわり強い力で引き戻された。


「きゃっ・・・。アラン様、離してください」


お腹にまわってる腕を引き剥がそうと掴んでも、却って力が込められて苦しくなってしまった。


「パトリック、今回は許す。早く政務に戻れ」



さっきと同じ早口で放たれる低い響きの声。喉元を抑えてアランを見据えるパトリック。二人の視線がぶつかりあい、小屋の中の空気が震え、白い肌をピリピリと刺した。


「エミリー、私はいつでも君の味方だよ」


頬の辺りに伸ばされてきた手が、ガッシリと掴まれ、サッと避けられた。



「触れるな」


「・・・分かったよ」


パトリックは両手をあげて肩をすくめ、小屋から出ていった。
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