シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「すまぬ・・・怖い思いをさせた」

腕の中で小刻みに震える身体。


「どうも私は君のことになると、冷静さを欠く。すまぬ・・」


私は今、後悔しておる・・・。君の気持を優先するあまり、このようなことになってしまうとは。やはり、逃げられても何でも、最初から私が迎えに来るべきであった。



「君が昨日から悩んでおること、私に話せぬのならそれでも良い。だが、あの部屋から出てはならぬ。出ていくのは私の方であって、君ではない。分かるな?」


耳元で切なげに語られる言葉。さっきパトリックに向けた殺気は消え失せ、体中がエミリーへの愛しさで満ち溢れていく。



「そんな、アラン様。それは違います。あの塔はアラン様のものですから・・・わたしはお部屋に住まわせて貰ってる身ですから、出ていくのはわたしの方です」


「まだそんなことを申すのか?君があの部屋を使う理由。私があの部屋を君にモノにした訳。それが何なのかまだ分からぬか?」


こんなに傍におきたいと思っておるのに、何故分からぬ・・・。


溢れる想いを止めることが出来ず、少し濡れた髪を唇でかき分けて耳にキスをした。すると腕の中で急に身動ぎが始まった。



「ぃゃ、やめて。見ないで・・見ないでください」



――見ないでくれ・・・?まさか―――


身動ぐ身体をグッと抑えつけ、ブロンドの髪を指でそっと避けてみると、刻印が二つ紅く色づいていた。



「これは・・・パトリックか?・・・同意の上か?」


“彼女は受け入れてくれたよ。キスして、それから―――”

“アラン様、パトリック様は大変危険な考えをお持ちです。同意があればそれは自由だ、と――”


先程言いかけた言葉。昨日君が垣間見せた想いは、やはり私の儚い夢であったか・・・・


「君は、やはり彼を好いておるのだな・・・。先程、彼と引き離した私を恨んでおるだろう?彼にあのようなことした私を、許せぬだろう」


哀しげに静かに語り、身体を包んでいた腕がゆっくり離されていく。あたたかい体からすーっと引き離されていく。



「すまぬ・・・私を許してくれ」


あんなに離して欲しかったはずなのに、一人になりたかったはずなのに、寂しくて哀しくなった。


手の届かない遠くに行ってしまいそうな気がした。




わたし、諦めなくてはいけないの・・・。

アラン様はシンディさんと結婚するのでしょう?


なのに・・・どうして迎えに来てくれたの?


どうしてそんなに哀しそうなの?


お願い、そんなこと言わないで



パトリックさんのことは好きだけど


違うの

そういうことじゃなくて


わたしは―――






「違うの。わたしは、アラン様が好きなの―――」
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