シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
周りの者が固唾を飲んで見守る中、アランはスゥっと頭を下げた後、大きな掌を差し出した。


「エミリー・モーガン、我が最愛の者よ。一曲お相手願い申す」


エミリーの手があたふたと宙を舞った。


――こんなに皆が注目する中で、堂々と、こんなわたしのことを“最愛の者”と発言できるのは、やっぱり生まれながらの王子様だからかしら。

物おじしないと言うか、動じないと言うか・・・。


「エミリー、私と踊ってくれるか?」


「・・・はい、アラン様」


頬を染め、差し出されていた手にそっと重ねると、待ちかまえていたように軽やかな音楽が奏でられ始めた。

会場の中には最早誰も踊る姿はなく、真ん中はぽっかりと空洞になっていた。


――どうして誰もいないの?こんな中で踊るの?

どうしよう・・・緊張しちゃうわ。


アランに任せた手が小刻みに震えてしまう。



「大丈夫だ。練習と同じにすれば良い。私に任せよ」


アランに会場の中心にエスコートされ、人々の注目を浴びる中、エミリーは踊り始めた。

初めてのパーティー。初めてのダンス。


しかもこんなに注目されてしまって、身体か固くなって脚が思うように動かない。



「エミリー、そんなに緊張せずとも良い。君のダンスは完璧だ。肩の力を抜いて、自信を持て」


「でも、アラン様、わたし初めてで・・・しかも、こんなに注目されて・・・・」



――緊張しないはずがないわ

だって、ほら・・・あそこのご令嬢たち。

わたしを値踏みするように見ているもの。

わたしがアラン様に相応しいかどうか―――


ターンするたび、嫌な笑いを浮かべて見ている御令嬢たちの顔が、いやでも目に入る。

見たくないのに目に入る、こそこそと話す人たちの姿。



―――やっぱり身分が違うから。


わたしにはアラン様のお相手なんて務まらない・・・。




ぎこちなく動く身体を優しくリードするアラン。

見ている者たちが、何やらこそこそと話しているのが目に入る。

エミリーの表情がどんどん沈んでいく。



暫くすると耳元に唇を寄せて囁かれた。



「全く、君は・・・そんなに緊張するのであれば、ここで、この震えている唇を塞ぐぞ?」


「えっ?アラン様何を・・・」


「そうすれば、身体の力が抜けるであろう?覚悟は良いか?」


――そんな・・・。ウソでしょう?こんなところで・・・
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