シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
背後で発せられた声と同時に捕らえられた腕。

レオナルドの動きがぴたりと止まった。



「この私の腕を捕らえるとは・・・何者だ?」


「レオ王子、私だよ。さぁ、彼女を離して頂こうか」


「それは無理だ。私は、彼女とゆっくり話がしたいだけだ。ルーベンの王子の命だ。この手を離せ」


「その命はお断りする」


「何?断るとは貴様――」



しっかりと握られた手を何とか振りほどこうと、レオナルドはしきりに画策していた。

腕に力を込めて引き剥がそうにも、どうにもびくともしない。

とうとう諦めてエミリーの身体をゆっくりと離し、背後にいる者に引き渡した。



ふんわりと柔らかな身体を引き寄せ、大切そうに包み込んだ。

抱き締めると漂う清楚な香り。

振られても変わらずに君が愛しい・・・初めて愛した人。

膨らんだ想いは、そう簡単に断ち切れそうにない。



「パトリックさん・・・わたし、アラン様に“離れてはならぬ”って言われてて」

「あぁ、分かっている。アランのところに連れて行くよ。だが、その前に一曲お相手願えるかい?」




「そうか!パトリックか!」


急に思い出した様にレオナルドが呟いて振り返り見ると、エミリーを守るように抱き寄せているパトリックが目に入った。


「しかし、何故君が?よく気付いたな。君は御令嬢の相手をしているとばかり思っていたよ」


「それはもう過去の話さ。今はほら、この通り愛する者一筋だ。気付かぬ筈はない」


「愛する者?君は特定の方を作らないと思っていたよ。だが、彼女はアランの妃になるだろう?」


「そこが苦しいところでね―――曲が始まった。レオ殿、失礼するよ」



パトリックの優雅な手に導かれ、会場の真ん中に躍り出たエミリー。

会場の隅では、レオナルドとさっきアランと踊っていた綺麗な人が談笑しているのが見える。


パトリックの柔らかなリードに、身体が自然に動いてとても踊りやすい。


今日初めて踊るパトリックの姿は、会場中の注目を浴びていた。

御令嬢たちの誘いの手を断り続け、優しい瞳を向けた唯一の女性は、アラン王子のお連れ様。



どうしてあの方がパトリック様と――――?



柔らかく優雅に踊るパトリック



頬を染めて見ている御令嬢たちのため息が聞こえるかのよう・・・




唇を噛み締めて見ている御令嬢の呟きが聞こえてくるよう――――
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