シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「あぁ、しかし、この会場からは出ないと約束して欲しい。マリア姫、良いですね?」

パトリックは念を押すようにして言うと、傍から離れていった。


パトリックと別れ、マリア姫と一緒にソファに座るエミリー。

早速使用人が飲み物が乗ったトレイを差し出して来た。

トレイの上にはシャンパンとワインが乗っている。

エミリーはシャンパンを、マリア姫はワインを取った。



「あなた、随分アラン様に目をかけていただいてるのね。私、昔からアラン様を知ってるけど、あなたに対する表情や態度。私、あんな柔らかな姿を初めて見たわ。ほら、今も此方をちらちら見てるでしょう?余程あなたのことが心配なのね?」


アランはどこかのご令嬢とダンスをしていた。

ご令嬢は頬を染め、嬉しそうにアランを見つめている。

アランは眉を寄せていて、すこぶる機嫌が悪そうにしながら、確かにこちらの方をたまに見ている。

すぐ近くでどこかの大臣らしき人が、二人が躍る様子をにこにこしながら眺めていた。

あの方はあのご令嬢のお父様かしら・・・。



「わたしパーティーに出るのは、今日が初めてなんです」


「まぁ、そうなの?とてもそんな風には見えないわ」


「だからアラン様は、こういう場に慣れてないわたしを気遣ってくれてるんです。異国から来て、この国に迷い込んだので、わたしには身寄りがないんです。たまたまアラン様に保護していただいて、塔に住まわせていただいて・・・。本来なら、こんな風に上流の方々と交流できるような身分じゃないんです。だから粗相しないか、心配なんだと思います」


「そうなの・・・そんなに身分が違うと、何かと心配をかけてしまうのは仕方がないわね」


使用人がソファに座る二人のために、フルーツの盛り合わせを運んできた。

エミリーはそれを手にとって、近くのテーブルの上に置いた。


「ねぇ、聞いてもいいかしら。こんなこと聞くのは失礼で、どうかと思ったけど・・・」


迷うようにブラウンの瞳が空を彷徨っている。

マニキュアを塗った美しい指先が、ワイングラスをゆらゆらと動かした。



「もう、思いきって聞くわ・・・あなた、アラン様の何なの?」


「わたしは・・・」


――どうしよう。何て言ったらいいのかしら。

求婚はされてるけれど、恋人というにはおこがましい

こんなに身分が違うのに・・・

わたしのような者が、アラン様の恋人だなんて言ったらダメだわ


アラン様の威厳が損なわれそう。


とてもそんな言葉は口にできない。



「言い淀むと言うことは、つまり、アラン様の何でもないのね?」


確認するようにマリア姫の瞳が覗き込んだ。

エミリーが迷いながらも頷くと、息を吐いてホッとしたように微笑んだ。



「良かったわ。あなた、アラン様の恋人だと思っていたけど、違うのね」
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