シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
振り返ると、御三家のうちの一人恰幅の良い紳士が、にこにこと愛想笑いを浮かべて立っていた。

今日は息子らしき若い男を隣に連れている。

息子はエミリーと目が合うと、軽く頭を下げてニコリと柔らかく微笑んだ。



「もう少し早くに御挨拶に参りたかったのですが、息子が、先程まで御令嬢たちのお相手をしておりましたので・・・遅くなり申し訳御座いません」


「ラッセル殿、遅すぎたな。彼女はもう休ませるところだ」


「王子様、その様なことは―――。主賓側の方が先に退室されるのはいかがなものでしょう。お見受けするところ、少々お疲れのご様子ですが、お部屋に戻らなければならぬ程には見えません。そのようなお心の弱さでは、これからとても務まりませんな。これだから貴族でないお方は―――」


ラッセルは嫌な笑いを浮かべながらエミリーをじろじろと見た。

その瞳には、予想以上の美しさであったことの驚きと、身分の低い者を蔑むようなものを同時に含んでいた。



「この私の連れに、最後に挨拶に参るとは。私も軽く見られたものだな?ラッセル、彼女には身分は無いが、私が騎士の誓いを立てた唯一の者“我が主”である。彼女を蔑むのは、この私を蔑むのと同意だと思うが良い。失礼する」


ラッセルに威厳をたっぷり含んだ声色で言い放つと、アランはエミリーの身体を庇うように腕の中に入れ、会場の中をゆっくりと出口に向かった。


背後から、ラッセルの大きな舌打ちがエミリーの耳に届いた。

振り返ると、青ざめながら苦虫を噛みしめたような顔をして、こっちを睨んでいる。

息子の方は焦りの表情を浮かべて、父親を宥めるようにして肩に手を置いていた。



――このまま退室してしまっていいのかしら・・・。

わたしのせいで、アラン様の立場が悪くなったりしたら、困るわ。


エミリーは会場を出てしまう前に、急いでアランの服を引っ張りながら言った。


「あの・・アラン様、いいのですか?あの方は、この国の重要な家の方ではないのですか?」



「構わぬ」



ラッセルを一瞥し不機嫌そうに一言だけ発すると、会場の中に戻ろうと抵抗する身体をいとも簡単に引っ張って、使用人が開ける扉から出た。


扉が閉められ、パーティ会場から漏れ出る音楽や楽しげな声が徐々に小さくなっていく。


歩いていると、仲睦まじく夜の庭を散策するカップルや酒を飲みすぎて夜風にあたる紳士などが、アランに気が付いて慌てた様子で頭を下げた。


軽く手を上げて挨拶しながら庭を通り過ぎ、王の塔の前まで来ると、アランは気を落ち着かせるように大きく息を吐き出した。
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