シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
正室の部屋の入口まで来ると、抱えられていた身体がそっと下ろされた。

ふらつく身体がしっかりと支えられている。


「入っても良いか?」


意外な言葉に驚いてアランを見あげると、優しさを湛えたブルーの瞳が見下ろしていた。少し困惑気味にも見える表情。

不思議そうに首を傾げて見つめていると、静かな声で話し始めた。


「ここは君の部屋であり、今は夜だ。私は、先日君に求婚をした。もう塔の主としてではなく、一人の男として君に接したい。ゆえにこの部屋に、しかも夜に、軽々しく入ることはできぬ。鍵を返して貰っておれば話は別だが、今はまだ許可がいる。意味が分かるな?―――入っても良いか?」


「・・・はい・・・どうぞ」


アランがほっとしたように軽く息を吐き、すぐに満足げに微笑み、ふんわりとしたブロンドの髪にキスをした。


部屋の中はカーテンは開けられていて、明かりがなくても十分に明るかった。

テラスの向こうに、二つの月が仲良く並んで空に浮かんでいるのが見える。

部屋の中に差し込む柔らかな月明かり。

白い調度品の金の縁飾りが明かりで鈍い光を放ち、壁に掛けられた花の時計は11時を指していた。

アランは片手でエミリーを抱き上げ、スタスタと部屋の奥まで入っていき、テラスの窓を少し開けた。

ひんやりとした風が部屋の中に吹き込み、紅潮した頬に心地良く当たる。

エミリーはその場にそっと下ろされ、アランと一緒に空を見上げた。



「月が綺麗ですね・・・」



空に浮かぶ二つの月。心なしか月の間がいつもよりも近い気がする。


「先程はすまなかった。あのような場所での振る舞い・・・酒の気分と君への愛しさが溢れた故・・・許せよ」


武骨な手が髪に伸び、宝石の散りばめられたアクセサリーを、ひとつひとつ丁寧に外していく。


「今日は、もう遅いゆえ、君は眠ったほうが良いな」


手がゆっくりと動き、全部のアクセサリーを取り終えフワッと髪が下ろされ、長い指が丁寧に髪を梳いた。


「これも取らねばならぬな・・・」


首の後ろに手をまわし留め金をカチッと外し、そのまま後ろ髪に手が差し入れられ、唇が丁寧に塞がれた。

今回は優しくて時間も短い。



「まだ決心はつかぬか?」


「ぁ―――ぇっ・・・と」


「良い・・私は、気長に待つ・・・だが、どうにも待ちきれなくなるかもしれぬ。その時は許せ」



アラン様の優しいキス。


さっきの踊り場でのとは全く違う。


何か、抑え込んでいるみたい・・・。
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