シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
パトリックが馬車止まりの方からこっちに向かって歩いてきた。

ウォルターとシリウスが体を堅くして少し身構えた。


「そんなに警戒するな・・・もう彼女に手は出さないよ。いいか?これから警戒するべき相手は、レオナルドだ。で、どうした?エミリー」


「パトリックさん・・・実は―――」




エミリーが森に行こうと画策しているその頃、アランは城下の市場に来ていた。


腕にはマリア姫の手が絡みついて、周りの皆に見せつけるようにしてヒタリと寄り添っていた。

本当はレオナルドもここにいるはずだが、今朝になって体調が悪いと言い出し、城に残っていた。

思わず降ってわいた幸運に、マリア姫はここぞとばかりにアランを独り占めし、自分をアピールしていた。



「アラン様、この国の市場は随分活気が御座いますのね。ここに我が国の産物も加われば、更に良い市場になりますわ」



アランの腕に豊満な胸を当て、うっとりとアランを見上げた。

アランの上腕に柔らかな感触が伝わる。

そんなマリアの色気のある攻撃にも、アランは相変わらず無表情のままで眉一つ動かさない。



「ラステアの産物は興味深いものが多かった。私としては交易を願うが、父君と相談の上決める。本日は我が国の特産品をご覧いただこう」



アランは市場の中でも一番大きな店の中にマリア姫を連れていった。

中にはギディオンの職人が作った、繊細な彫りを施した銀細工が所狭しと並べられていた。

店主が急いで飛び出してきて丁寧に頭を下げた。



「これはこれは・・・王子様。事前にご連絡いただければ、それなりの準備を致しましたのに・・・」


店主は値踏みするように、アランに寄りそっているマリア姫を見た。

赤みがかったブラウンの髪は何処の国の方だろうか・・・。

この方が噂の異国の方?だが、噂では確かブロンドの髪だと言っていたが・・・。



「なんて繊細で綺麗な細工なのでしょう。アラン様じっくり見ても宜しいんですの?」


「どうぞ、ゆっくりご覧になるが良い」



アランの腕から離れ、ショーケースの中を一つ一つゆっくり眺め始めた。

気に入ったものがあったのか、店主に頼んで開けて貰っている。

その姿を見ているアランの表情がほんの少し柔らかくなっていた。

マリア姫の後ろ姿に、エミリーの姿を重ね合わせていた。



――女性はこのような場所を好むのか・・・彼女も連れて来なければなるまいな。
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