シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
今頃何をしておるのか。

よもや、料理長の後をついて森に向かってはおるまいな・・・。

彼女は言いだしたら聞かぬ・・・ウォルターでは止められぬかもしれぬ。

パトリックが居るゆえ大丈夫だとは思うが・・・迂闊であった。

しかと申しておけば良かった。

レオナルドが城に残っておるのも気になる―――


アランはマリア姫を見ながら、心はエミリーの元に飛んでいた。

それを知らない店主は、いつもと違う柔らかな表情とマリア姫を見つめる視線を見て、あらぬ勘違いをしていた。

銀細工を夢中になって見ているマリア姫に嬉しそうに耳打ちをした。



「あなた様はアラン様の恋人で御座いますね?あの方があんな表情をされるのを初めて拝見しました。われわれ国民にとっても大変喜ばしいことです。氷の王子様の心を射止めた未来の花嫁様に、これをお一つ差し上げましょう。どうぞお受け取りください」


「まぁ、分かりますの?そうですの。私はアラン様の妃になるべくこの国に参りましたの。この綺麗な細工のしおり、有り難く頂戴いたしますわ」


マリア姫が後ろを振り返り見ると、アランがじっと自分を見ていた。

やっと少しは興味がひけたのかと、マリア姫は嬉しくなった。



――アラン様が私を見てくださる。このまま一日一緒に過ごせば、きっと心を通わせることが出来ましょう。

あの方は身分も違うもの。妃になどなれるはずもない。

気品と威厳がこの私と違うもの。

この国の王子の妃は、私でなければいけないの。


ね?アラン様、そのことにお気づきになったのよね?


昨日のパーティで、そのことに気付かれたのよね?



「アラン様、参りましょうか」


店主から貰ったしおりを侍女に渡し、満足げに微笑みながら再び腕に絡みつき、さっきよりも大胆に更にぴったりと身体を寄せた。


アランは何かを思い立ったようで、その手をグイッと外し、ヒルのようにくっつけられた身体をベリっと剥がした。



「マリア姫、少々お待ち願う」


二人の姿を見てにこにこと笑っている店主の元に行き、ショーケースの中から一つ選んで包ませた。包みながら、店主はマリア姫の顔をちらちらと嬉しそうに見ていた。



「お待たせした。参ろう」


「アラン様、一つお願いがございますの。今日の夕食のことですが、私エミリーさんと一緒に頂きたいんですの。出来れば二人で・・・私、あの方とは良いお友達になれそうですわ」


「分かり申した。その様に手配致す―――ジェフ、城に使いを頼む」
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