シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「やはり来てくれたな。待ってたよ。マリア姫ご苦労様」

レオナルドは嬉しそうにエミリーの手を握った。


「・・・離して下さい」

「いつもの元気が無いな・・・さては、マリア姫にいろいろ言われたな?」


エミリーは視線を避けるように横を向いて俯いた。レオナルドが二の腕を掴んで身体を正面に向かせ、何とかして顔を覗き込むと、蒼白な頬に艶はなく、アメジストの瞳にはいつもの輝きが失せ、すっかり曇ってしまっていた。



「図星か。私の言った通りであろう?アランはマリア姫のことが好きだ。彼女に、そんな話をされたのだろう?さぁ、こっちに来て、ここに座るといい」


レオナルドは背中に手を当てて誘導し、ソファに座るように薦めた。

少し抵抗していると抱き抱えられて、ふんわりとソファに下ろされた。



「すみません。わたし、やっぱり帰ります」


「見くびって貰っては困る。私は何もしない。シルヴァと違って、紳士だからね」


レオナルドは、テーブルの上に置いてあった分厚い古めかしい本を手に取り、エミリーの隣に座った。

脚を組んだ姿勢でパラパラとページをめくり、あるページでピタッと止めると、エミリーの顔を覗き込んだ。



「知りたいかい?自分が何者で、何故この国に来たのか――」


アメジストの瞳が見開き、グリーンの瞳を見つめた。

レオナルドの瞳はとても真剣なもので、ふざけた様子は全くない。



――この方の言ってることは本当なの?この本に本当にわたしのことが書いてあるの?



「この預言のことはアランは知ってるよ。なんせ、10歳になるまでに全部暗記させられているらしいからね。こんなの全部暗記だとは、まったく、正気の沙汰とは思えないよ」


レオナルドはページをパラパラとめくりながら、うんざりした様な声を出した。

すぐに真剣な表情に戻り、本をエミリーに差し出した。


「あなたは本は読めるようだが、この国の古語は分からないだろう。ページの中ほどに、現代語に訳した紙が挟まれている。読むかどうかは、あなたに任せる」


「あの、シルヴァが言ってました。わたしがシェラザードの化身だと・・・それと同じ様なことが書かれてるのですか?」



「読めばわかるさ」


エミリーは本を見つめた。

何が書かれてるのか知りたいけれど、怖い。

本を受け取るかどうかを迷っていると、レオナルドはため息をついて、本を脇の机に置いた。


「やはり、いきなりは無理だな。読む決心がついたら言ってくれ。いつでも本を見せてあげる。ただ、早くしてくれ。私の滞在期間は短い・・・それとも、一緒に私の国に来るか?」
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