シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
食堂を出てすぐに部屋に戻ったエミリーは、テラスに出て景色を眺めていた。

正面には薔薇園が広がり、左側の方に月祭りの会場となる広場が垣間見える。

木に囲まれた広場には、真ん中に舞台らしきものが作られてる。

今日は聖なる月の日。リンク王様が亡くなられた日。

今日は町中の恋人たちが愛を告げあうのかしら。


もし、アラン様が王子様じゃなかったら―――


エミリーは瞳を伏せて悲しげにため息を吐いた。

テラスから戻り、棚に置いてある銀の小箱を手に取った。


繊細な細工模様の銀の箱。


これは鍵を入れるために作らせたって、アラン様は言ってたっけ。

留め金を外して開けると、銀の鍵が日の光りでキラリと輝いた。

これは、シルヴァの屋敷から戻ったあの日からずっと、アラン様に返されるのを待っている。


何度となく手に取って、本当は返したくて。

アラン様に鍵を使って欲しくて。

でも現実にはそういうわけにもいかなくて。

迷っているうちに失恋しちゃったわね・・・・・。


アラン様は何も言わないけれど、この鍵はわたしが持っていてはダメだわ。

とにかく、これはマリア姫が持ってないと。

今夜この部屋を使うのなら、マリア姫がアラン様に鍵を渡さないといけない。


エミリーは、クローゼットの中から花の刺繍の綺麗なハンカチを選び、銀の小箱を丁寧に包んだ。



「シリウスさんいますか?」

「エミリー様、シリウスはここに御座います」

「貴賓館に行ってマリア姫に会いたいの」

「承知致しました。貴賓館に使いを出します」






その頃、シンディは神殿の中で禊食を食べていた。

舞いの稽古が終わり、禊の段階に入った途端、野菜とフルーツの食事しかしていない。

シンディはブツブツと小声で呟きながら人参を睨んでいた。

まるで親の敵を見るように睨むと、意を決してフォークでさした。



――何でシェラザード様は野菜とフルーツしか食べなかったの?

肉を食べなかったって・・・だから体力がなくて、若くして命を落としたのよ。

肉を食べていれば、もっと長生き出来たわ。

しかも、人参が好物だったって、誰が聞いたの?


皿の上には可愛い花の形に切られた人参が乗っていた。



「シンディ様、それを食べて頂かないと、会場に行くことが出来ません」


「分かっているわ。今食べるから待ってなさい。何よ、これくらい―――」


禊に入ってから呼び寄せた、家のメイドをギロっと睨み、必死で平気そうな顔を作った。

目を瞑って大きく開けた口に入れ、噛みもせずに丸のみした。
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