シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
太陽が西の山に傾き、城の庭に長い影が落ちる。
巣に帰る鳥の群れが夕焼け空に黒くよく映え、馬車道には祭りの会場に向かう人の波が途切れなく続いていた。
城門から来た馬車が人々の脇をゆるゆるとすれ違っていく。
――さすが城の行事ね。みんな粛々として黒の礼装だわ。
わたしこの色でいいの?
身支度を整え終わったエミリーは、3階の部屋の窓から外の様子をずっと見ていた。
窓ガラスに映るのは、ノースリーブで胸元の広く開いたドレス姿。
白無地で縁飾りのないシンプルなデザインのものだが、シャクジの花が胸元から裾まで金糸で豪華に刺繍されている。
髪飾りもシャクジの花と月をモチーフにしたものが付けられ、胸元には宝石が幾つも煌めいていた。
王族の女性の正装は白で、このドレスは皇后からの贈り物だった。
コンコン。
『エミリー様、アラン様で御座います』
「はい、どうぞ」
扉がサッと開かれ、アランがスタスタとこっちに歩いて来る。
エミリーは振り返らずに窓ガラスに映るアランを見つめていた。
一般の黒の正装とは違い、紋章付きの濃紺の服を着ている。
銀髪にとても似合っていて素敵。
「私は今夜、君に伝えねばならぬことがある。祀りが終わった時に申す故、そのつもりでいて欲しい」
ガラス越しに見ても分かる、アラン様の真剣な瞳。
いつもと違って、何か思いつめたような表情。
話したいことって、何なのか分かってる。
「はい」
窓の外を見つめながらエミリーは呟くように返事をした。
ポケットの中には大切な銀のしおり。
これだけは・・・唯一これだけは、わたしのもの。
ドレスの上からそっとてのひらで包んだ。
窓ガラスには沈んだアメジストの瞳が映っている。
霞んで見えるのは涙が少し溢れてきたせい。
これを止めないと、アラン様の方を向けない。
振り返ることが出来ない。
動かずにじっとしていたら、ガラスに映る濃紺の姿がどんどん大きくなり、武骨な手が伸ばされてきて、すっぽりと背中から覆い被さる様に、ぎゅっと抱き締められた。
「祀りの最中何があっても、決して私の傍を離れてはならぬ。何処にも行ってはならぬ。良いな?」
「はい」
「では、参るぞ」
差し出された腕にそっと乗せられる美しい手。
アランはその手の感触を噛みしめ、歩調を合わせゆっくり歩き出した。
昨日一日マリア姫に絡められても何も感じなかったのに、この手はそっと乗せられているだけなのに、しっかりと存在を主張し、心の中に入り込んできて止まない。
五感のすべてを絡め取られてしまう。
少しでも気を抜くと溢れ落ちそうで不安になる。
巣に帰る鳥の群れが夕焼け空に黒くよく映え、馬車道には祭りの会場に向かう人の波が途切れなく続いていた。
城門から来た馬車が人々の脇をゆるゆるとすれ違っていく。
――さすが城の行事ね。みんな粛々として黒の礼装だわ。
わたしこの色でいいの?
身支度を整え終わったエミリーは、3階の部屋の窓から外の様子をずっと見ていた。
窓ガラスに映るのは、ノースリーブで胸元の広く開いたドレス姿。
白無地で縁飾りのないシンプルなデザインのものだが、シャクジの花が胸元から裾まで金糸で豪華に刺繍されている。
髪飾りもシャクジの花と月をモチーフにしたものが付けられ、胸元には宝石が幾つも煌めいていた。
王族の女性の正装は白で、このドレスは皇后からの贈り物だった。
コンコン。
『エミリー様、アラン様で御座います』
「はい、どうぞ」
扉がサッと開かれ、アランがスタスタとこっちに歩いて来る。
エミリーは振り返らずに窓ガラスに映るアランを見つめていた。
一般の黒の正装とは違い、紋章付きの濃紺の服を着ている。
銀髪にとても似合っていて素敵。
「私は今夜、君に伝えねばならぬことがある。祀りが終わった時に申す故、そのつもりでいて欲しい」
ガラス越しに見ても分かる、アラン様の真剣な瞳。
いつもと違って、何か思いつめたような表情。
話したいことって、何なのか分かってる。
「はい」
窓の外を見つめながらエミリーは呟くように返事をした。
ポケットの中には大切な銀のしおり。
これだけは・・・唯一これだけは、わたしのもの。
ドレスの上からそっとてのひらで包んだ。
窓ガラスには沈んだアメジストの瞳が映っている。
霞んで見えるのは涙が少し溢れてきたせい。
これを止めないと、アラン様の方を向けない。
振り返ることが出来ない。
動かずにじっとしていたら、ガラスに映る濃紺の姿がどんどん大きくなり、武骨な手が伸ばされてきて、すっぽりと背中から覆い被さる様に、ぎゅっと抱き締められた。
「祀りの最中何があっても、決して私の傍を離れてはならぬ。何処にも行ってはならぬ。良いな?」
「はい」
「では、参るぞ」
差し出された腕にそっと乗せられる美しい手。
アランはその手の感触を噛みしめ、歩調を合わせゆっくり歩き出した。
昨日一日マリア姫に絡められても何も感じなかったのに、この手はそっと乗せられているだけなのに、しっかりと存在を主張し、心の中に入り込んできて止まない。
五感のすべてを絡め取られてしまう。
少しでも気を抜くと溢れ落ちそうで不安になる。