シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「あ・・・あの、アラン様・・この席は・・・ここは王族の方の席でしょう?わたし座っててもいいのですか?ここは、パトリックさんの席ではないのですか?」

「良い。パトリックはここには座らぬ」

「そうよ、エミリーさんの席はここで宜しいわ。ラムスターのことは、どうぞ気になさらぬよう。彼は今別のところにおりますの」


――気にするなって言っても・・・。


エミリーの座った場所を見て、客席の一部からざわめきが起こっていた。

どうやら先日のパーティで話しかけてきた、あの御令嬢たちのグループのようだった。

皆眉を寄せた表情で顔を寄せ合って、時々マリア姫の方を見ては、気の毒そうな顔を作っていた。

御三家のラッセルとかいう紳士も、渋い顔でアランの方を見ていた。

御令嬢たちがチラチラ見ている当のマリア姫は、舞台の向こうの雛段席からこっちをずっと見ていた。

真っ赤な唇は固く結ばれ、美しい顔は少し歪んでいた。



――マリア姫は、わたしがここに居るのが気に入らないんだわ。

当然よね、ほんとならここにマリア姫が座るべきだもの。

わたしは、ここにいるべきじゃない・・・・。



「アラン様、わたしはあちらに移ります。マリア姫にこちらに来ていただきましょう。その方がいいわ」


「待て!何故マリア姫がここに来なければならぬ?君は、ここから動くでない。傍を離れてはならぬと申したであろう。もう始まるゆえ、頼むから大人しくしておれ。良いな?この席から動くでないぞ」


アランは今にも動き出しそうな身体を制し、逃さないように手をぎゅっと握った。



西の山に日が沈み、ギディオンの国に夜が訪れた。


空には数億の星が瞬き、二つの月が寄り添うように浮かんでいる。

ざわめいていた会場の人々も祀りの始まりに向け、それぞれが居住まいを正していた。

姿勢を正して座り直す紳士や、澄ました顔で裾を整えて座り直す御令嬢、ネクタイをきゅっと締めなおす紳士もいた。

神官が舞台の上にあがり、祭壇の前に進み出て、空高く手を差し出した。




「二つ月よ。リンク王が誓いし言の葉、嘘偽り無く永遠となり、今に継ぐ。今を昔と―――」



神官の祝詞が朗々と述べられ始めた。

夜空に浮かぶ二つの月は、惹き合うように近付いていく。


舞台の上のかがり火が揺れ、火の粉がパチパチと舞いあがった。


風が止み、木々のざわめきが消え、神官の祝詞だけが辺りに響き渡る。


会場の空気がピリピリと振動し、月の光が一層輝きを増し、かがり火など要らないほどに会場を照らした。




「今これより、巫女の舞いを奉納せん」
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