シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「彼がその後いくら願っても、月に呼ばれることはありませんでした。私は、彼がすぐに転生を望むと、そう思っていました。すぐに天に召されると。ですが、彼は諦めませんでした。月に拒まれ、行く宛がなくても、神からの・・・天からの御召しにも応じず、今も月に召されるのを・・・・・ずっと待っているのです」


シェラザードの手がスッと斜めに降り下ろされると、窓の映像がふっと消えた。

代わりに広場の様子が映し出された。

客席の皆が雛壇席に注目してる様子が見え、雛段席には、倒れたわたしを心配げに取り囲んでる人たちが見えた。



「あの・・・神話には月になったと書かれていて、この国の方は皆それを信じています」


「あなたの言う神話は、側近の方が書かれた記録を元にされたものでしょう・・・。事実とは違いましょう」


この国の人々の心に息づく神話、リングの誓いの元になった神話。

それが間違っていて、ほんとうはリンク王はずっと地上に留まってるなんて、皆が知ったらどう思うかしら。



「今、彼はある場所にいます。月の祀り事は彼の死後に設けられ、毎年行われるようになりました。彼が月に召されるように。彼の願いが叶うように・・・」


「そうだったのですか。でもこの祀りは護国のためだと聞きました。昔は違ったのですね」


「今でも、護国のためではなく、彼のための祀りです。その証拠に、祀りのたびに私は神官に呼ばれ、こうして月から舞い降りるのです。彼は待っているのです。この私が迎えに来るのを。幾年月も――――」


シェラザードの瞳が悲しげに染まり、遠くを見つめた。


――リンク王様は今でもずっとシェラザード様を愛してて、ずっと会えるのを待っている。

この祀りの最中もどこかにいて、シェラザード様に会えるのをずっと待ち続けてる。

なんて強くて哀しい想いなのかしら・・・。



「祀りはずっと行われているのでしょう?どうして願いが叶わないのですか」


「会えないのです。この国の者の身体ではどうしても駄目なのです。私の資質に近い者でないと・・・私の力を分けられる者でないと・・・そうでないと、弾かれてしまい、降りることが出来ないのです」


「あの・・・その、資質の合うもの・・・それが、わたしだと言うのですか?」


「そうです。私は、あなたをずっと探していたのです。私の力を分けられるあなたを・・・あなたには、こちらの世界に招くため、既に力を分けてあります。その力を、感じたことは無いですか?」


シェラザードは柔らかな微笑みを溢し、エミリーの手を握った。



「力を?・・・そういえば・・・あの、わたし―――」
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