シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
エミリーがシェラザードと話をしてるとき、雛段席にはフランクが来ていて、エミリーの脈を計っていた。


「エミリー・・・目を覚ませ・・・エミリー」


いくら呼び掛けても、瞼は固く閉じられ、ふっくらとした唇もしっかり結ばれたまま微動だにしない。


「王子様、落ち着いて下さい。エミリーさんは意識を失ってはいますが、脈もしっかりしていますし、顔色もいい。大丈夫ですよ」


フランクの眼鏡が、かがり火の炎でぎらぎらと光っている。

椅子から倒れ込んだ身体は、冷えから守るように、アランの膝の上で抱き抱えられ、武骨な手は頬をずっと撫でていた。

確かに、頬はほのかにピンク色で、フランクの言う通り、具合が悪いという訳では無さそうだった。



「フランク、では何故意識を失っておる?」


「恐らく、祀りの影響でしょう。王子様、エミリーさんは月に、リンク王に呼ばれたのかもしれません」


「月に―――?それはどういうことだ・・・」


「先日はリンク王の記憶をご覧になられました―――」





――アラン様と医官のフランクが顔を寄せあって話をしてる。

なんかとても深刻そう・・・。

ね、アラン様はエミリーさんのことが、そんなに大切なの?

そんなにエミリーさんを想ってるの?


そんな姿は初めて見るわ・・・。


ね、私は?私のことは?あのとき言ってたじゃない。


“好いておる”って、言ってたじゃない・・・・。



舞台の上で茫然と立ち竦む少女。

束ねられたストレートの長い髪に綺麗なブルーの瞳。

哀しげに見開かれた瞳に映っているのは、大切そうにエミリーを抱えるアランの姿。



アラン様は、さっきからずっと、エミリーさんを誰にも触れさせようとしてない。

あのウォルターさんの手も、国王様の手さえも拒んでいるわ。

とても心配げに眉を寄せている。


いつも無表情なのに、あんな顔するなんて・・・アラン様があんなに取り乱すなんて・・・。



シンディは目の前の光景を信じたくなかった。

茫然と立ちすくむその背後に、いつの間にかパトリックが立っていた。



「シンディ、分かったかい?彼は・・・アランは、エミリーしか見ていない」

「お兄様!?どうして?アラン様は私のこと、好いてるって言ってくれたわ」



「すまない、シンディ。それは・・・私がそう言うように彼に頼んだせいだ」



「どうして?どうしてそんなことを?」



「すまない・・・シンディ。稽古の気を、削ぎたくなかったんだ・・・失恋したせいで、舞いの稽古が滞り、祀りが失敗するのを恐れたんだ。私を許してくれ」



「そんな―――お兄様、酷いわ。ひどいわ―――」
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