シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
――私、アラン様のために舞ったのよ?

綺麗に舞って、アラン様に見て貰って・・・それで、今夜愛を告げたかったのに。

禊だって辛かったけど、嫌いなニンジンも食べて頑張ったのよ?

私は何のために、巫女になったのか、これじゃわからないわ・・・。



「お兄様なんて大嫌い―――」


シンディはその場に崩れ落ち、顔を覆って泣き始めた。

パトリックは震える小さな肩を優しく抱き締めた。



「シンディ、すまない」


「お兄様―――」



シンディはパトリックの胸に顔を埋め、声を殺して泣きじゃくった。



エミリーが倒れた後、会場の祀りごとは中断し、客席からも話し声は聞こえず、皆が固唾を飲んで雛壇席に注目していた。


アランの姿は警備兵に囲まれて見えないが、大変なことが起こっていることだけは伝わってきていた。

アラン様の大切な御正女様に何かあったらしい―――

御令嬢たちも互いに顔を見合せ、無言で心配げな顔を作り、雛壇席に注目していた。

あのご三家のひとり、恰幅のいいラッセルも腕を組んで、ずっと見ていた。




「ぅ・・・ん・・・」



腕の中から小さな呻き声が聞こえてきた。

長い睫毛がふるふると震え、アメジストの瞳がゆっくりと開かれた。

腕の中からすーっと起き上がった身体。

アメジストの瞳が周りを確認する様にゆっくりと彷徨い、アランの方を見た。



「ここは・・・祀りの広場ですね?あなたは―――アラン王子ですね?」



頭の中に直接響き渡るような声。

小さく、か細く発せられた声は、シェラザードの力により、この会場にいる者、客席に座るすべての者の耳に届いていた。



「君は誰だ!?エミリーはどうした!?」





「私の名はシェラザード」





会場のあちこちからざわめきが沸き起こった。

皆口々に“信じられない”とか“まさか本当に?”とか言っている。





「シェラザード?まことか―――何故、あなた様がここに?」


「心配なさらないで。彼女には今眠って頂いています。積年の願いを叶えるため、彼女の許可を取り、この身体を借りました。アラン王子、私を彼の元に―――リンク様の元に連れて行って下さい」




「リンク王の元に・・?」



「あなた様は御存じのはずです」



シェラザードはニッコリと微笑み、木々の間から垣間見える、月に照らされた政務塔を指差した。

白亜の塔が月の光に照らされ、金色に光っている。



「外観は違いますが、昔と変わらぬ場所にありますね。リンク様はあの中の一室に、おられます」
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