シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
エミリーはベッドからふんわりと降りた。

気のせいかしら、なんだか身体がとても軽い。

昨日の夜も沢山食べたのに、また痩せたのかしら・・・?

少し不思議に思いならも、ベランダの窓を開けた。


以前と変わらない景色。

朝の光りに照らされたイングリッシュガーデン。

門の向こうの道をジョギングしてるカップルが、仲良さげに微笑み合い通り過ぎていく。

向かいの家の人は今から出勤なのか、スーツを着て車に乗り込むところだ。

玄関の前で奥さんがにこやかに手を振っている。


――向かいの家の人、前は確か独身だったはず。わたしが居ない間に結婚したのね・・・。

車に乗り込もうとしてたのに、何かを思い出したのか、玄関の方へ戻っていく。

奥さんに一言何かを言っている。

奥さんの方は恥ずかしげに下を向いてしまった。

それが可愛くてたまらないといった感じで抱きしめている。

手を握って頬にキスをして、名残惜しげに手を振りながら車に乗り込んだ。


「新婚さん・・・とても素敵だわ」


――普通の幸せ・・・。

好きな人と結婚をして、毎朝“いってらっしゃい”て見送って、愛する人の服を洗濯して家の掃除して、お料理作って帰りを待つの。

玄関の扉が開いて“ただいま”って言うのが聞こえたら・・・わたしは玄関まで走って行って“おかえりなさい”って笑顔で言うの。

“お疲れ様”って・・・私の作った料理、美味しいって食べてくれるかしら。


エミリーの脳裏に浮かぶのは、テーブルの向こうで手料理を食べてくれるアランの姿。


――わたしったら、また無理な夢を・・・。


エミリーは壁に掛けてあるドレスを見上げた。

このドレスは、昨日までギディオンの国にいたことを、あの出来事が夢ではなくて現実だったことを、静かに主張してくる。

エミリーはスカートのポケットを探った。


ハンカチのような布が最初に触れ、その後、指先に薄い金属の感触が伝わってきた。

この感覚だけで心臓がツキンと痛くなる。


“エミリー”



名前を呼ぶ声が鮮明に思い出される。

エミリーは迷っていた。

取り出してみたいけれど、この目で見てしまったら、きっと、会いたくてたまらなくなる。


帰ってきたことを後悔しそうになる。
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