シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「もう、すでに後悔してるかもしれないわね・・・」

エミリーはドレスにそっと頬を寄せて瞳を閉じた。


遠い・・・手も、声も届かない遠いギディオンの国。

何処までも続く青い空。

3階の部屋から見える綺麗な薔薇園、城の庭の中を爽やかな風が吹いて、花がサワサワと揺れている。

鳥の声が絶えず聞こえて、皆が笑っていて・・・いろんなことがあったけれど、楽しかった城の生活。


アラン様がいる生活・・・自分で捨ててしまった生活・・・。


こんなに、会いたくてたまらないなんて・・・。


こんなに声が聞きたいと思うなんて・・・。


こんなに抱きしめて欲しいと思うなんて・・・。


これは、自分で決めたこと。

アラン様のためにと決めたこと。


だから後悔なんて、しちゃいけないの。



閉じられた瞳から涙が頬を伝って流れ落ち、ぽたぽたと落ちる雫が手の甲を濡らした。

その様子を心配そうに見つめる紫の瞳。

娘がなかなか下りて来ないのを心配して呼びに来ていた。

ドアを開けて目に入ったのはドレスに寄りそって、肩を震わせている娘の姿。

まるで自分の娘ではないような儚い姿。

気のせいか背中には羽が生えているように見える。

昨日、天使の力がどうこうっていう話を聞いたせいで、そう見えるのかしら。

思わず目をこすって、もう一度よく見てみた。

すると、本当に羽が生えているように見える。

実際には生えて来なくても、オーラみたいなものがあるのかもしれないわね。


エレナはドアをそっと閉めて静かに階段を降りた。

下でジャックが心配げに眉を寄せて待っていた。



「エミリーはどうだ?」


「泣いていたわ・・・。ねぇ、あの子、向こうの世界に戻りたいんじゃないかしら?あの様子、きっと向こうで好きな人が出来たんだわ」


「何故そう思うんだ?」


「そうね・・・女の勘よ」


訝しげな顔を向けるジャックに、エレナは自信ありげな顔を向けた。


「それよりも、ジャック。あの子の背中に天使の羽が見えたわ」


「やはりそうか・・・。私は昨夜からずっとそう感じていた。戻ってきたのは良いが、普通の生活が送れるのか、私は心配になってきたよ」


「あの子は私たちの娘だけれど、それだけではなくなってしまったようだわ・・・」


エレナはジャックの胸に顔を埋め、ジャックは手をそっと背中に当て、慰めるようにぽんぽんと叩いた。
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