シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
郊外の住宅が立ち並ぶ一角に建つ、二階建ての瀟洒な作りの家。

母親の物だろうか、車庫には可愛いブルーのミニが一台停められている。

少し広めの、自慢のイングリッシュガーデンには、数羽の小鳥が訪れて可愛い囀ずりを競うように響かせている。

その中ほどから楽しげな笑い声が聞こえてきた。

エプロンに手袋をしてスコップを持ったエレナとエミリー、足元のトレイには花の苗が整然と並べられている。



「エミリー、この花はこっちに植えた方がいいかしら?」


「そうね、ママ。色的にはこっちの隅の方がいいわ。で、コレがここ―――どう?」


暖かな日差しの中、エミリーはエレナと一緒に庭の花を植えていた。

花の苗のポットを庭の中にポンポンと置きながら、二人であーでもないこーでもないと意見を出し合っていた。


「ねぇ、ママ。こうなると、もう一つ色が欲しいわね?」


「そうねぇ、もう一つ・・・今から買いに行きましょうか」


エレナは楽しげに相槌を打つと、ガーデニング用の手袋を脱いだ。

二階を見ると書斎の窓が開いている。

そこに向かって大きな声をだした。


「ジャック!今からエミリーと買い物に行ってくるわ」



「買い物かい?いいよ、行っておいで。私は書斎に籠ってるよ」



ジャックは机にしがみついたまま、外に向かって声を張った。

ジャックは今忙しい時期で、毎日たくさんの書類に埋もれていた。

今研究している物の資料や本、他の学者から送られてきた研究発表の書類などが散乱し、相変わらず何が何処にあるかわからない。

イライラと髪をかきむしりながら、 さっきから探し物をしていた。



「昨日の貰った資料はどこだ?写真付きのがあったはずだが・・・」



机の上にある様々な書類をひっくり返してひととおり探ったが、どうにも見つからない。

ジャックは、腕を組んで思案げに上を見上げた。

そのままの姿勢で数分間、やっと何か想い至ったのか、急にぱぁっと顔が明るくなった。


「そうか!あそこだ・・・。昨日―――」


嬉しそうに呟いて、急いで階段を降りていった。



誰もいなくなった書斎。


そこに、突然、バサバサと羽根の音がして、積み上げられた本の上に一羽の青い小鳥がとまった。

暫く不思議そうに首を傾げながらキョロキョロしたあと、唄うような綺麗な囀ずりを響かせた。


ひとしきり唄って満足したのか、優雅に羽ばたいて窓の外に飛んでいき、フッと消えた。
< 359 / 458 >

この作品をシェア

pagetop