シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
エミリーは驚いていた。

ギディオンの国にいた時も、強い心で拒絶の声をあげると、相手が怯むことはあった。

でもそれは相手がただ驚いて、ドッキリとして固まってるだけのことで、天使の力とか、そんな特別なものだなんて夢にも思っていなかった。


“私の力を分けられる者”


もしかして、これがシェラザード様の力なの・・・?

一喝するだけで、まさかこんな風に体の自由を奪ってしまうなんて・・・。

周りの人々は、羨望を含んだ眼差しでエミリーを見ていた。

外から入ってきた人達が訝しげな表情で周りの様子を見た。



「何かあったんですか?みんな動かないけど、楽しそうな顔して・・・。あ―――あれか、ドッキリ。何処にカメラがあるんだぁ?」


若い男性が愉快そうにビデオカメラを探し始めた。

他の人も、目を見開いたままキョロキョロしてカメラを探しているようだった。



「ぁ・・・ごめんなさい・・・」


固まっていた人達が動き始め、ざわめき出した。


“今のは何だったの?”

“急に動けなくなったわ”

“でも、不思議と気分が良いわね”



「ほら。エミリー、行くわよ!」


エレナはショックを受けて茫然としてるエミリーの手を引っ張り、急いでレジを済ませて車に乗り込んだ。

車に乗っても、まだ戸惑っている様子のエミリー。

エレナは片手でハンドルを握りながら、そんな娘の手をきゅっと握った。



「気にすることは無いわ・・・」


「ママ・・・力を分けられたっていっても、わたし普通の人なんだもの。そんな力は一時的なもので、すぐに消えると思っていたの。こんな風に残ったままになるなんて、思ってもいなかったの」


「えぇ、そうね・・・そう思うのが普通だわ。あなたはごく普通の、私の愛しい娘よ」


「ママ・・・・」



「でもね、今までずっと言わなかったけど・・・あなたの背中には・・羽根があるの」



「え・・・?ママ、何言ってるの?うそでしょう?」



エレナの信じられない言葉に、エミリーは焦りながら自分の背中を手で探ってみた。

場所を変えて、何度も背中を辿ってみるが、どんなに探ってみても羽根らしきものや、突起のようなものに当たらない。

ほっと息を漏らし、隣でハンドルを握るエレナの顔を見た。



「ママったら・・・もう、からかわないで。一瞬信じちゃったわ」


「そう、触っても分からないわ。実際には生えていないもの。だけど、見えるのよ。オーラのような揺らめきが・・・あなたの、背中に」


「ママ・・・本当なの?」


アメジストの瞳が大きく見開かれ、エレナの顔を見つめたまま、暫く動かなかった。
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