シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
その後ろ姿を見送ると、途中だった本の整理に再び取りかかった。

踏み台の下に散乱していた数冊の本を拾って、テーブルの上に積み上げた。

そして、再び踏み台に登ろうと手をかけた時、書籍室の扉がバンッと音を立てて開かれた。

突然の音に驚いて、ビクッと身体を震わせてしまう。


書籍室の中をパタパタと走る足音がこちらに向かってくる。

その足音は、棚の向こうから名前を呼びながら近付いてくる。


息を切らしながら走り寄って来たのはメイだった。

「大丈夫ですか?どこも怪我はないですか?」

メイの瞳は涙が今にも溢れそうなほどに潤んでいる。

「あんな恐ろしい雷・・・。エミリー様の元に駆け付けようと思ったんですけど、怖くて・・・申し訳ありません」

最後には涙声になり、抱きついてくるとそのまま泣き始めてしまった。


よほど怖かったのだろう。

日頃しっかりしているとはいえ、自分とあまり歳は違わないのだ。

もし、外に近い場所で仕事をしていたのならば、その恐怖は想像するのも恐ろしい。


「メイがわたしに謝ることなんて一つもないわ。メイこそ、大丈夫だったの?」

メイはぐずぐずと鼻をすすりながら離れると、辛そうに顔を歪めた。

「私は大丈夫でしたが、何人か怪我人が出た様です。庭に居た兵士が、雷に打たれて折れた木に当たって、怪我をしたそうです。今、医務室で治療を受けています」

青ざめて話すメイの表情に、今回の雷がもたらした被害はかなりあったことが伺える。


書籍室の中ではウォルターが部下に指示を出し、窓の確認と被害状況の報告をさせていた。


「エミリー様も、今日はここの掃除は終わらせて、お部屋に戻った方がいいです。他のメイドや使用人もそれぞれの控室で待機中ですし」

メイが掃除道具を抱えエミリーの手を引っ張った。


「その通りです。エミリー様は部屋にお戻りを・・・我々は、パトリック様にここを片付けるよう命じられております」

いつの間にか傍に来ていたウォルターにも戻るよう促された。

その有無を言わせぬ雰囲気に、後をお願いして部屋へ戻ることにした。


塔に戻る廊下から外を見ると、雷が落ちた木が見事に真ん中で裂けているのが見えた。

強い風雨で木の葉や花弁があちこちに散乱し、折れた花が痛々しげに地面に首をもたげ、今だ降り続く雨に打たれていた。

美しい庭の無残な状況に心が痛む。


怪我をした人はどのくらいいるのだろう。

出来ることがあれば、何か手伝わなければ・・・。

「待って、メイ。医務室に行きましょう」





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