シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「何時になったら診てもらえるんだ!?」
医務室の扉を開けた瞬間、耳に飛び込んで来た苛立ちを含んだ人々の声。
「さっきから同じ言葉しか聞いてないぞ。お前さんじゃ話にならん。医官を出せ。見ろこの怪我を・・・早く手当てしないと膿んでくるじゃないか」
言いながら使用人の男が、ささくれた倒木の枝で作った傷を見せた。
腕に当てた布が血で真っ赤に染まっている。
医務室の中では遅々として進まない治療に、我慢ならない数人の負傷者が治療室の前に居る助手に詰め寄っていた。
「ですから何度も言っておりますが重傷者の治療が優先でして、今まさに医官二人ともが、その最中です。すみませんがお待ち下さい」
助手は治療室の扉の前に立ちはだかるようにして、腕を広げた。
「いいからそこをどけ。中の様子を少し見るだけだから」
言いながら付き添いで来ていると思われる太った男が、腕を押し退けて入ろうとするのを必死で抑える助手。
「あなたじゃ手当てができないの?」
そんな助手にメイドが近寄り、痛めた腕を差しだして見せている。
「すみません、私は1週間前に入ったばかりでして・・・」
助手が申し訳なさそうな顔をして、メイドを見た。
「とにかく、もうしばらくお待ちください」
こうしている間にも、医務室には次々と負傷者が訪れてくる。
部屋に入りきれずに廊下にまで溢れている。
そんな混雑の中、部屋の真ん中辺りで一人の使用人が顔を歪めて脂汗をかきながら、人波にもまれていた。
もみくちゃにされ、その使用人が何か叫んでいるが周りの喧騒にその声は全く届かない。
・・・これでは治療どころでなくて、それ以前の問題だわ。
何とかこの事態を収拾しなければ、ますます治療が遅れてしまう。
故郷に居た頃、災害ボランティアで負傷者治療の手伝いをしたことが脳裏に浮かぶ。
上手くできるかどうか自信はないがやるしかない。
エミリーは意を決し、大きく息を吸い込んだ。
「お静まり下さい!!」
突然部屋の中に響いた張りのあるメゾソプラノの声。
その声に騒いでいた人たちが動きを止め、息を飲む。
あっという間に部屋の中がしんと静まり返った。
「みなさん、落ちついて下さい。これではますます手当てが遅れてしまいます」
エミリーは人々の間をかき分け、扉の前でもみくちゃにされていた助手の元に歩み寄った。
「お疲れ様です。医官に話があります。少しの時間だけ通して下さい」
一言で騒ぐ人々を黙らせた、その凛とした迫力と真摯な瞳に、助手は広げていた腕を下ろすと、無言で扉を開けた。
医務室の扉を開けた瞬間、耳に飛び込んで来た苛立ちを含んだ人々の声。
「さっきから同じ言葉しか聞いてないぞ。お前さんじゃ話にならん。医官を出せ。見ろこの怪我を・・・早く手当てしないと膿んでくるじゃないか」
言いながら使用人の男が、ささくれた倒木の枝で作った傷を見せた。
腕に当てた布が血で真っ赤に染まっている。
医務室の中では遅々として進まない治療に、我慢ならない数人の負傷者が治療室の前に居る助手に詰め寄っていた。
「ですから何度も言っておりますが重傷者の治療が優先でして、今まさに医官二人ともが、その最中です。すみませんがお待ち下さい」
助手は治療室の扉の前に立ちはだかるようにして、腕を広げた。
「いいからそこをどけ。中の様子を少し見るだけだから」
言いながら付き添いで来ていると思われる太った男が、腕を押し退けて入ろうとするのを必死で抑える助手。
「あなたじゃ手当てができないの?」
そんな助手にメイドが近寄り、痛めた腕を差しだして見せている。
「すみません、私は1週間前に入ったばかりでして・・・」
助手が申し訳なさそうな顔をして、メイドを見た。
「とにかく、もうしばらくお待ちください」
こうしている間にも、医務室には次々と負傷者が訪れてくる。
部屋に入りきれずに廊下にまで溢れている。
そんな混雑の中、部屋の真ん中辺りで一人の使用人が顔を歪めて脂汗をかきながら、人波にもまれていた。
もみくちゃにされ、その使用人が何か叫んでいるが周りの喧騒にその声は全く届かない。
・・・これでは治療どころでなくて、それ以前の問題だわ。
何とかこの事態を収拾しなければ、ますます治療が遅れてしまう。
故郷に居た頃、災害ボランティアで負傷者治療の手伝いをしたことが脳裏に浮かぶ。
上手くできるかどうか自信はないがやるしかない。
エミリーは意を決し、大きく息を吸い込んだ。
「お静まり下さい!!」
突然部屋の中に響いた張りのあるメゾソプラノの声。
その声に騒いでいた人たちが動きを止め、息を飲む。
あっという間に部屋の中がしんと静まり返った。
「みなさん、落ちついて下さい。これではますます手当てが遅れてしまいます」
エミリーは人々の間をかき分け、扉の前でもみくちゃにされていた助手の元に歩み寄った。
「お疲れ様です。医官に話があります。少しの時間だけ通して下さい」
一言で騒ぐ人々を黙らせた、その凛とした迫力と真摯な瞳に、助手は広げていた腕を下ろすと、無言で扉を開けた。