シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
廊下ではパトリックが最後の負傷者の治療をしていた。

椅子に座っているのは、メイと同い年くらいの若いメイド。

額に怪我をしたのか、抑えているハンカチは血で赤く染まっている。

轟音に驚いてしゃがみ込んだ際に机で打ったと、問診票には書いてあった。


「見せて・・・」

額を抑えている手をそっと避けて怪我の状態をよく診た。

出血量は多いが、傷自体は浅くて小さなものだ。

―――この程度なら、縫うほどでもないだろう。

「少し沁みるよ」

優しく語りかけながら血を拭くと、額の傷に消毒薬を塗り始めた。



目の前で真剣な表情で優雅に自分を治療してくれるパトリック。

その姿を焼き付けるように、見つめる瞳は焦げるように熱い。


「この程度なら痕は残らないだろうが、気になるなら明日医官に診てもらうといい」

言いながら額にガーゼを貼ると、安心させるように微笑みを向けた。


「ありがとうございました」

自分に向けられた微笑みに、頬を赤く染め、ため息交じりにお礼を言うメイド。

手当てが終わっても椅子から動くことができない。

終わるのを向こうで待っていた友人に名前を呼ばれると、ハッとしたように慌てて立ち上がって駆けて行った。

そして二人してひそひそ話をして嬉しそうにした後、パタパタと戻って行った。


メイはその後ろ姿を見送ると、道具の片づけをしているパトリックに向き直った。

「ありがとうございます。パトリック様、お疲れさまでした。レスター様も、ありがとうございました」

廊下でたくさんの人を前に奮闘していたところに、駆け付けてくれた二人に感謝して、メイは丁寧に頭を下げた。

「メイ、よく頑張ったね。助手の君もご苦労様。このことはアランと侍女長に報告しておくよ」

パトリックは労うように、メイの頭にポンと手を置いて微笑んだ。

その大きくて優しい手はとても温かくて、張り詰めていた心がほんわり癒されていく。

「いえ、私など・・・・。エミリー様の指示に従っただけです」

頬を赤く染め、俯いて恥ずかしそうな表情をするメイ。


自分に向けられた優しい瞳に、勝手に心臓が踊りだし、頬は赤く染まっていく。

先ほどのメイドもそうだが、大抵の女性はパトリックに弱い。

普段ジェフが大きく心を占めているメイでも、今この時ばかりは影を潜めてしまう。

この優しいオーラと微笑みは、それほどの威力があるのだ。


「パトリック様!此方に居られましたか!」

静かだった廊下に、突然焦ったような男の声が響きわたった
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