シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
一人の兵士が向こうからバタバタと駆けてくる。
「何だ、騒がしいぞ。ここは医務室の前だ」
「申し訳ありません。ですが・・・」
窘められた兵士はオロオロと瞳を泳がせる。
「パトリック様、後片付けは私たちが行いますので、お二人はどうぞお戻りください」
頭を下げながら、メイは視線を泳がせている兵士を横目に見た。
すると兵士は落ち着きを取り戻したのか、きちんと居住まいを正し、改めてパトリックに向き直った。
「先ほど、アラン様が城下より帰城されました。執務室でお待ちです」
「わかった。すぐに参ると伝えてくれ」
あのひどい嵐の中、城下はどのような状況だったのか、被害は出たのか。
それに、アランや部下たちには怪我はないのかどうかも、気になる。
こちらも報告しなければいけないことが山ほどある。
急いで参らねば―――。
「レスター、お前はすぐに指揮に戻れ。私は医官に報告を済ませてくる」
言いながらカルテ代わりになった問診票を束ね、急いで医務室の扉を開いた。
負傷者の姿のない部屋の中は、いつものような平穏が戻っていた。
窓の外はすでに暗闇が辺りを包み、嵐の後から随分時間が経っていることが分かる。
奥の方ではエミリーが床のごみを掃いていた。
艶めくブロンドの束ね髪が、箒を動かすたびにふわりと動く。
その後ろ姿に、日だまりの中に居るようにほんわりと心が温まり、今まで急いていた心が落ちついていく。
ホッと息をもらし、パタンと扉を閉めた音に反応して振り返る彼女。
ふわふわと髪を揺らし、箒を持ったまま走り寄ってきた。
「お疲れさまでした。今、中で最後の方が治療を受けています」
そう言うと、治療室の扉を心配そうに見つめた。
「メイに聞いたよ。混乱の中よく頑張ったね。ご苦労様」
「いえ、そんな・・・わたしは大したことはしてません」
慌てて謙遜するように否定の言葉を言いながら、彼女は手を横に振る。
「そんなことはない。私はとても助けてもらったよ。これのおかげでスムーズに手当てができた。感謝するよ」
束ねた問診票を見せると、沈みがちだった瞳に少し力が戻った。
「役に立って良かった・・・実はとても不安だったんです。でも、わたしは、メイに随分負担をかけてしまいました。慣れないことをさせてしまって・・・」
再び瞳を曇らせ、唇を固く閉じて辛そうな顔をした。
「すまない。本当はもっと早くここに来られるはずだったんだが・・・。アランがいないこともあって、皆が混乱していてね。各方面に指示を出すのに手間取ってしまった。君は最良の行動をしてくれたんだよ。自信を持っていい」
感謝と労いの気持ちを込めて、細く小さな肩に手を置くと、俯いていた顔をあげた。
こちらを見上げるその瞳は潤んでいて・・・。
その表情に、堪らない気持ちになった―――
「何だ、騒がしいぞ。ここは医務室の前だ」
「申し訳ありません。ですが・・・」
窘められた兵士はオロオロと瞳を泳がせる。
「パトリック様、後片付けは私たちが行いますので、お二人はどうぞお戻りください」
頭を下げながら、メイは視線を泳がせている兵士を横目に見た。
すると兵士は落ち着きを取り戻したのか、きちんと居住まいを正し、改めてパトリックに向き直った。
「先ほど、アラン様が城下より帰城されました。執務室でお待ちです」
「わかった。すぐに参ると伝えてくれ」
あのひどい嵐の中、城下はどのような状況だったのか、被害は出たのか。
それに、アランや部下たちには怪我はないのかどうかも、気になる。
こちらも報告しなければいけないことが山ほどある。
急いで参らねば―――。
「レスター、お前はすぐに指揮に戻れ。私は医官に報告を済ませてくる」
言いながらカルテ代わりになった問診票を束ね、急いで医務室の扉を開いた。
負傷者の姿のない部屋の中は、いつものような平穏が戻っていた。
窓の外はすでに暗闇が辺りを包み、嵐の後から随分時間が経っていることが分かる。
奥の方ではエミリーが床のごみを掃いていた。
艶めくブロンドの束ね髪が、箒を動かすたびにふわりと動く。
その後ろ姿に、日だまりの中に居るようにほんわりと心が温まり、今まで急いていた心が落ちついていく。
ホッと息をもらし、パタンと扉を閉めた音に反応して振り返る彼女。
ふわふわと髪を揺らし、箒を持ったまま走り寄ってきた。
「お疲れさまでした。今、中で最後の方が治療を受けています」
そう言うと、治療室の扉を心配そうに見つめた。
「メイに聞いたよ。混乱の中よく頑張ったね。ご苦労様」
「いえ、そんな・・・わたしは大したことはしてません」
慌てて謙遜するように否定の言葉を言いながら、彼女は手を横に振る。
「そんなことはない。私はとても助けてもらったよ。これのおかげでスムーズに手当てができた。感謝するよ」
束ねた問診票を見せると、沈みがちだった瞳に少し力が戻った。
「役に立って良かった・・・実はとても不安だったんです。でも、わたしは、メイに随分負担をかけてしまいました。慣れないことをさせてしまって・・・」
再び瞳を曇らせ、唇を固く閉じて辛そうな顔をした。
「すまない。本当はもっと早くここに来られるはずだったんだが・・・。アランがいないこともあって、皆が混乱していてね。各方面に指示を出すのに手間取ってしまった。君は最良の行動をしてくれたんだよ。自信を持っていい」
感謝と労いの気持ちを込めて、細く小さな肩に手を置くと、俯いていた顔をあげた。
こちらを見上げるその瞳は潤んでいて・・・。
その表情に、堪らない気持ちになった―――