シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
綺麗なアメジストの瞳は医務室の灯りに照らされ、ゆらゆらと輝く。

潤んだ瞳から今にも零れおちそうな雫が睫毛にかかっている。


バサっと音を立てて床に散らばる問診票。

自分でも気付かないうちに、腕は自然に動き、彼女の頬を両手で包みこんでいた。

驚いたように見開かれるアメジストの瞳。

その拍子に雫が頬に流れ落ちる。

その雫を指でそうっと拭った。

ふっくらとした唇が何か言いたげに震えている。


このままこの唇を塞いでしまおうか―――

そして・・・そのまま・・・。

抑えきれないほどに溢れる感情と闘うパトリック。


目の前の細くしなやかな身体は、ほんの少し力を込めれば思い通りに出来る。

このまま有無を言わせず、抱きしめて屋敷に連れ帰ることだってできる。


しかしそれはアランが許すまい。

それに彼女の心無くして手に入れても、結局虚しいだけだ。


葛藤するパトリックの感情を最終的に制したのは、理性でもなく、アランへの忠誠心でもなく、手の中に感じる白い肌の異変だった。


「―――冷・・・・・・ッ?!」

そういえば・・・なぜこんなに冷えているんだ・・・まさか―――

すぐに箒を持つ手を取って確認すると、氷のように冷たい。

体中が冷え切っている。



「あ、これはさっきまで腫れを冷やすために・・・決して身体のどこかが悪いとか、そういう訳ではなくて・・・」

困ったように、何でもないと言いながら、あたふたと手を引っ込めようとするのを阻み、温めるように掌で包んだ。

寒さのためか、その手が小刻みに震えている。

こんなになるまで・・・


「ここはもういいから。部屋に戻って休んだ方がいい」

上着を脱いで、身体をすっぽりと包み込んだ。


―――今日のこの上着は彼女のためにあるようなものだな・・・。


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