シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
急に立ち止まって命じられ、意味が分からずにキョトンとした表情を浮かべるメイ。

「様子が少しおかしい。用心した方が良い」

入口を睨みながら発する緊張感を含んだ言葉。

その様子に目を見開いて驚いたものの、メイはすぐに神妙な面持ちになった。

無言で頷くと、塔の入口を不安げに見つめる。


「アラン様・・・わたし歩けます・・・ここで下ろして下さい・・・このままじゃ、足手まといに・・・それに、アラン様は・・・今・・・」

腕の中から聞こえる不穏な空気を悟った、か細い声。

声を出すのも苦しげな様子なのに、歩けるなどと言う。

こんな状態で下ろせるはずがないだろう。

まぁ、こんな状態でなくても下ろす気にはならないが。

「心配するな。念のため、だ。君は大人しく私に身を任せておれば良い」

蒼白な頬でこちらを不安げに見上げているエミリー。


冗談ではない。

君一人が負担になるなど、そんなに私は柔ではない。

私は王子として、有事の際には、どんな状態でも先頭に立てるよう日頃から鍛錬しているつもりだ。

愛しい者一人をこの手で守りきれない男など、この国の王子を名乗る資格など、ない。


すると一向に下ろす気配のないのに痺れを切らしたのか、腕の中の身体は強硬手段に出始めた。

身をよじって私の腕の中から出ようとしている。

手足をばたつかせるものだから、今にも腕から零れ落ちそうだ。

「危ない・・・大丈夫だから。大人しくしないと、落としてしまう―――」

この細い身体のどこに、こんな力があるのか、抑えつけようとしても動こうとする。

これは君には使いたくないが―――仕方あるまい。


「駄目だと申しておる!」


ピリッと肌を刺すような声の響き。

動かせていた手足をビクッと震わせた後、ピタッと止まり、身体の力がすうっと抜けていった。

バタバタと動く身体を大人しくさせるためとはいえ、君に王子の威厳を使ってしまうとは。

漸く大人しくなってくれたが、脅かしてしまった・・・。

「すまない。君はそうしておれば良い」

腕の中でアメジストの瞳を潤ませ、唇は何か言いたげに震えていた。

「そんなに案ずることはない」



しかし、塔の中に賊の居る可能性は、ある。

いつもと違う雰囲気を醸し出していることは確かだ。

ただの思い過ごしで、何事もなければ良いが。





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