シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
塔の中、薄暗い廊下を周囲を警戒しながら進む。

政務塔から続くこの廊下は迷路のように入り組んで作られていて、部屋まで辿り着くのに時間がかかるようになっている。

こうした作りになっているのは、有事の際この塔に住む者が逃げられる時間を稼ぐためだ。


ここまでは何事もないな・・このまま何も起きなければいいが・・・。

メイは指示通り、足音をなるべく立てずについてくる。

忍び足にするためか、その慎重な歩みは遅い。

さっきまでよりもさらに遅くなった歩みに焦れるが、仕方あるまい。

ゆっくり歩いていると、薄暗い廊下の奥に部屋に通じる曲がり角が漸く見えてきた。

しかし―――


―――妙だ・・・何かおかしい、あの角の向こう。

闇から漂ってくる異様な気配。

こちらの様子を窺うような、妖しい気配。

息を殺し、何かがあそこで身を潜めている。

あの向こうに何者かが、居る。

立ち止まって振り返ると、あちらからは何の気配も感じない。


皆が疲れて休んでいる今、塔の中の警備は薄い。

懸念していた通り、賊の侵入を許してしまったということか?

急に立ち止まった私を、怪訝そうに見つめているメイに、壁に寄って座るよう視線で指示を送った。

メイは見る間に青ざめた表情になり、不安げにしている。

大人しく指示通り座った膝元に、エミリーをそうっと下ろした。

メイの腕の中に身体を預けると、頬にそっと触れた。

さっきよりは温かくなっているな・・・。

未だ血の気のない白い頬・・・不安げな色を宿したアメジストの瞳


―――暫しの間待っておれ。すぐに済ませてくる。


踵を返し、暗闇の向こうに意識を集中させた。

肌を刺すようなピリピリとした緊迫感。

息遣いまでもが聞こえるような静寂な時が過ぎる。

氷のような殺気を身に纏い、息を殺し、ジリジリと進む。

闇の向こうを見据え、呼吸を合わせるように相手の気配を感じ取る。


・・・カチャッ


微かに聞こえる金属音。


―――来るか・・・


月が雲に隠れ、塔の周りに闇が訪れる。

薄暗い廊下が闇に包まり、漂い来る殺気がさらに濃くなった。


カチャッ―――剣の柄に手をかけ、身構える。

出来ればここで血を流したくはないが、生憎私は急いでいる。

手加減も容赦も出来ぬ―――覚悟は良いか




「そこに居るのは何者か!?」

静かだが、殺気を乗せて放った言葉。

それに答え、弾けるように廊下に飛び出して来たのは、意外な人物。


ウォルターだった―――

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