シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
―――刹那、その声は響いた。

「そこに居るのは何者か!?」


小さいが、凍りつくような威厳のある声。

聞き覚えのある声色―――ッ――――っ!!


すぐさま剣を床に置き、真ん中に進み出ると跪いて頭を深く下げた。


「申し訳ございません!!アラン様とは分からず―――っ!!」


廊下に飛び出してきた人影に瞬時に体が反応し、目の前の頭部に剣が閃く。


”―――――ッ!?”


跪く頭の前、寸でのところで止まった剣が、ギラリと鈍く光る。

床に手をつき、項垂れるウォルターの髪が、数本宙に舞い、床にはらはらと落ちた。

一瞬の静寂の後、気を落ちつかせるように息をスッと吐くと、アランは剣を下ろした。


「・・・ウォルター、良い殺気であった」


剣を腰の鞘に収める音と供に、辺りに充満していた氷のような殺気がすうっと消えていく。

「しかしっ、アラン様、私は―――っ!」

いくら警備のためとはいえ、主君に刃を向けるなどあってはならない。

エミリー様の行方のことといい、重ねる失態に顔を上げることができない。

いっそのこと、その刃で命を絶って欲しかった。


「良いと申しておる」

静かに放たれた許しの言葉に、ますます申し訳なさが募っていく。

唇を噛み、辛そうに眉を寄せ、がばっと顔を上げるウォルター。

しかし苦渋に歪む瞳に映ったのは、踵を返すアランの背中。


・・・?何処に行かれるのか。

脚の向こうに目を凝らすと、壁際に座っている人物が見える。

あれは・・・メイか?・・・の膝元に、何か大きな上着をすっぽり被ったようなものが見える。

薄暗い通路の床にスッと伸びた白い足。


「すまなかった。ますます冷えてしまったな・・・」


アラン様が跪いて大切そうに抱えているのは

その腕の中には・・蒼白な頬の―――

「エミリー様!?これは一体・・・どうなされたのですか?」

その姿に驚き、重かった感情が一気に吹き飛ぶ。

行方が分からないと思っていたその人が目の前に居る。

しかもぐったりとして、とても具合が悪そうだ。

何処で何をされていたのか。


「医務室で倒れていた。貧血と軽い疲労だそうだ。急ぎ部屋に連れて行く」

抱えるアランの腕は血がじっとりと沁み、包帯は白い部分がないほどに赤く染まっていた。

「恐れながら、アラン様は先にお怪我の手当をした方が宜しいのでは・・・私がエミリー様を部屋にお連れいたします」

言いながら腕を差し出すウォルター。


その腕を見つめるブルーの瞳―――
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