シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「・・・今、何と申した?」

ブルーの瞳に怒りの色を浮かべ、ウォルターを見据える。

氷のような威厳が再び辺りを包み始めた。

「私に指図をするのか」

刃を向けたことよりも何よりも、このことが、何故かアランの怒りに触れている。

訳が分からないまま、自分に向けて放たれる圧倒的なオーラに、額に汗が滲み出てくる。

「申し訳ございません。アラン様のお怪我があまりにも酷く。私はただ、一刻も早く手当てを・・・と思った次第で、決してその様なつもりは、ございません」

慌てて出していた手を引き、一歩下がって頭を下げるウォルター。

その顔は恐れ青ざめている。


「アラン様、ウォルターさんの言う通りに・・・早く医務室に・・・・・わたしのことは、いいですから」

エミリーが腕の中からまたしてもか細い声を出す。

今度は怒っている私を窘めるような色を含んでいる。

「分かっている・・・だが、それは君をベッドに届けてからだ」


「大変っ―――!そうだわ・・・いけない・・・」

何かを思い出したのか、背後でメイが小さな呟きを洩らした。

「あの、アラン様。私、先に行ってベッドを整えてきます」

言うが早いか、メイが慌てて膝を折って挨拶した後、部屋に向かってバタバタと走って行った。


その背中に気を取られていると

「あの・・・ウォルターさん、お願いします・・・」

言いながら、またしても降りようと身体をよじり始めるエミリー。

しかも、今度はウォルターの方に腕を伸ばそうとしている。

全く・・・駄目だというのに、困ったものだ。

「君がそうやるたびに、傷口が開き、怪我が重くなる。頼むから大人しくしておれ」

がっしりと動かないよう抱き直し、歩き始めた。


「でも、アラン様。熱が―――」

まだ言うか・・・意外に頑固だな。

私の言うことを聞かぬのは、国中探しても君くらいのものだ。

私を心配してくれているのは嬉しいが、今は君のほうが優先だ。

傷口からは未だに血がじわじわ出ている。

すでに包帯はぐっしょりと血で濡れていた。

これは、さっき剣を振るったのも影響しているな。

急がねば、エミリーの身体を血で汚してしまう。


しかし、このまま何の情報もなく診せたら、フランクに叱られることは確かだ。

「ウォルター、医官に治療の準備をして待っておるように伝えよ。傷はガラスの破片で負ったものだ」
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