シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
廊下を走りながらメイは焦っていた。

嵐の影響で掃除が中途半端に終わっていたのだ。

確かシーツは取り替えたはずだけど。

急がないとアラン様の脚は早いわ。

それになんだか怒っておられたし・・・

ウォルターに向かって放たれた威厳を思い出し、ぶるっと身を震わせる。

やはりあの方は怖い・・・


急いで部屋に飛び込み、ベッドの周りをチェックした。

シーツはOK、枕もいいわね。あとはえっと・・・服を変えた方がいいわ。

本当は湯殿に入ると良いのだけれど、今日は無理みたいだし。

手際良くベッドを整え直すと、ナイトドレスをタンスから出しておいた。

出しっ放しになっていた箒を仕舞おうとしていると、コンコン・・・と扉を叩く音が聞こえた。


――大変!

いそいそと箒を片付け、扉を開けた。

「はい―――アラン様・・・あれ?」

外には料理長がにっこりと笑って立っていた。

急いで階段を上って来たのか、でっぷりとした体を揺らしながら肩で息をしている。

手に持った脚付きのトレイには、蓋をされた土鍋とお椀が載っていた。

「なんだ、料理長だったの・・・」

さっきのアランの様子に緊張していたメイは、予想外のことにホッと肩を落とした。


「メイ、嵐は大変だったよなぁ。皆ぶるぶる震えてテーブルの下にもぐっていたよ。ここは大丈夫だったか?はい、ご所望の消化の良い温かい食べ物。熱いから気をつけてな―――あれ?エミリー様は?」

メイにトレイを渡しながら、部屋の中を覗き込む料理長。

いつも夕食のときに給仕をすると、笑顔で”ありがとう”と言ってくれる。

あの笑顔を見ないと、一日が終わった気がしない。

笑顔でなくてもいいから、せめてお顔を拝見できないものか・・・。



「料理長ご苦労。それを置いたら下がって良い」


思ってもいなかった方からかけられたアランの声に、驚くと同時に、腕の中で蒼白な頬をしてぐったりと身体を預けているエミリーに、もっと驚いた。

しかも、アランの腕は真っ赤に染まっている。

これはいったい・・・。

部屋の入口を占領していた大きな体を脇に避け、急いで頭を下げた後、おずおずと問いかけた。

「アラン様、失礼いたしました。あの、エミリー様はどうなさったのですか?」


「すまない料理長。急いでいる」

部屋に足早に入り、整えられたベッドの上にそうっと下ろした。

クッションを背に当てて座らせると、温かい湯気を出しているトレイをメイから受け取り、ベッドの上に置いた。

「何か食べてから眠ったほうが良い」


すると、エミリーは食欲はないとでも言いたげに首を振る。


アメジストの瞳がみるみるうちに潤んでいく。

その視線は怪我をした腕に集中していた。


「お願い・・早く医務室に行ってください・・・」
< 98 / 458 >

この作品をシェア

pagetop