赤い狼 四
さっきばらまいたお菓子を机の上に取り敢えず避難させる。
ヤバい。床に凄く散らかった。これは掃除機じゃないと駄目だな。
身体中の二酸化炭素を吐き出すように大きなため息をつく。
あぁ、最近はため息ばっかりついてる気がする。
幸せ逃げるな…最悪、と思いつつ隣の部屋にある掃除機を取りに床から腰を上げる。
そして隣の部屋に足を進めた時、香が、稚春~。と甘えた口調で私の名前を呼んだ。
女にそんな声を出すな、と顔をひきつらせながら香の方に振り向くと
香は右の口角だけをクイッと上げて、なんとも悪そうに笑っている。
その顔に鳥肌がたった。
「隼人様が稚春の事を"妃菜"って呼び始めたら私たちに教えてね~?」
「え。」
「あ。あと、そう呼ばれたらビンタしてきなさいよ。」
「えぇえ…。」
香ってば何てこと言い出すんだ、と思ってたら実まで隼人にビンタ食らわせろ、とか言うからビックリが二倍になった。
待て待て。私にそんな事が出来ましょうか。いいえ、無理です。断じて無理です。
実と香に気付かれないように必死に心の中で否定を繰り返す。