赤い狼 四
「厄介だなぁ、この痕…。」
混乱する私に気付きもしないでまだ私の左の首辺りを眉間に皺を寄せながら凝視する棗。
棗が眉間に皺を寄せるなんて珍しい。と、いうか初めて見た気がする。
塚、近い!!
さっきまで大人しかった心臓がまた暴れだす。
それなのに棗は私の首にもう片方の手を回してきて棗との距離はもっと近くなり、逃げる道がなくなった。
暴れていた私の心臓はドックンバックンと変な音を立てだして壊れるんじゃないかていうくらいに危機を感じた。
あぁあああ!もう駄目だ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!今度は死ぬ!絶対死ぬ!塚、離して。
半狂乱になってそんな事を頭の中でブツブツと唱えていると――…
「なんか妬けちゃうなぁ。」
あろうことか棗が私の左耳たぶのすぐ下をペロリと舐め始めた。
ザラザラと棗の舌の感触が私の肌に伝う。
「ひゃ…んっ、」
「消毒、しねぇと…な?」
ビクッと私の体が反応をしたのを見た棗がクスリと笑っていつもとは違う低い声で囁く。
口調もいつもと違って棗じゃないみたいだ。