赤い狼 四
「…っ!」
「じっとしてて?」
棗のその行動に驚いて思わず後退りをすると、棗が腕を腰の後ろに回してきて逃げられなくなった。
「ちょっと、何…」
「黙ってて。」
どんどん近付いてくる棗の顔に心臓が暴れだす。
何何何!?
パニック状態に陥った私はもう抵抗する事も出来ず、その場で固まっていた。
その間も棗は私を真剣な表情で見つめてきて、長いピンク色の前髪から覗く瞳にドキドキと胸が高鳴るのが分かった。
棗の顔が目の前にある。
もう、どちらかが前に動けば唇と唇が触れそうで…―――
し、死ぬ!
我慢できなくなってギュッと目を瞑った。
「…あぁ、本当だ。悪い虫がついたね。」
「…へ?」
左の方から声が聞こえて、固く閉じていた目を恐る恐る開く。
すると、棗が私の左の首辺りをマジマジと見ていた。
…悪い虫?
意味が分からなくて頭にハテナマークを浮かべる。
虫が付いてたの?