恋愛カクテル
「最近、店でお見かけしませんね」


当然の話題に身がすくむ。


「…ええ、まあ」


忙しくて、とかいう嘘が苦手な私は言葉を濁すしかない。


「他にいい店でもありましたか」

「いえ、そんなことは…」


ありました、そこに行くのが好きになりました、みたいな嘘もつきたくないし、いくらもう会わない通りすがりだとはいえ、つくべきじゃない。

男性の目が、私の買い物籠を捉えた。



「…シェークと、メジャーカップ?」



今度は恥ずかしくて汗が出た。
思わず隠すようにして籠を遠ざける。


「じ、自分で作ってみようかと思って!」


我ながら、ぎこちない笑顔だと思う。


「本があるので、配合もわかるし、腕を磨けばオリジナルカクテルなんていうものも編み出してみようかなんて不届きなことを夢見つつ!」


ここは笑ってほしかった。

けれど、男性は笑わず、どこか沈痛な表情で私を見た。


「…前に俺が言ったこと、気にしてますか」


チクリと、胸が痛んだ。

気にしなかったわけじゃない。

そういう目で見られて悔しくなかったわけじゃない。

でも、それは、この人ばかりが悪いわけじゃないと思ったから。

だから今、こんな顔をさせてしまったことに申し訳なくなってくる。


「俺の態度は、最低でしたよね」

「ち、違います」


どう言えばいいのかわからず焦る。


「カクテルが好きなんです。本当です。だから自分で作ろうと思っただけです」


そこに至る経緯は置いておいて、とりあえず真実だけを誠心誠意伝えると、男性はやっと再び微笑んだ。

よかった。
笑ってくれた。
ちょっとホッとし…



「じゃあ、教えましょうか?」



………え?
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