悲恋エタニティ
驚いたような顔で見つめてくる姫に、訝しむように眉をあげてみせた。


「なんですか?」


――異議など受け付けない。

そう締めだしてから、そのあまりの自分の横暴さに思わず微笑みが洩れる。


(ぼろぼろ、だな、霧夜……)


目の前の女に狂わされている。

どうしようもなく。

俺は罪悪感に、再び視線を逃がした。

そして追い打ちをかけるようにこう続けた。

いつも即座に俺が助けられるわけではなく、もし品を選べと言われた時どうするのかと。

あなたは食物の目効きができないと。

そんなもの、二度と外出を望まない姫には必要のない能力だというのに、それすらも黙らせるため、食物を知ることもまた鍛練のひとつと嘯いた。

更に街の者と触れ合うことで『一般人』の実態を掴むことも立派な鍛練と思わせた。

鍛練。

姫が犬死にしないために俺から学ぼうとしている『死に方』。

悲痛なこれだけが、最後の切り札のように姫を動かす。

それに動く姫も、それを振りかざす俺も、惨めだと思った。

愛しい女に、毎日『死ね』と言っている。

しかも、自分の欲のために。


――吐き気がする。


「それが完璧にできる頃、桜も見頃に花開いていますよ」


―――桜など咲かなければいい。

そう

思った。


不完全なあなたのままならあなたはずっと俺とともにあるだろう。

未完成なあなたのままならあなたはずっと俺の傍にいるだろう。

だから時など進まなくていい。

時など止まってしまえばいい。

今のまま。

冬のまま。

この寒い白い景色のまま。


「その時は絶景の場所にお連れしましょう。きっと満足いただけると存じます」


本当はそんな時期を迎えたくない。

その気持ちを隠すように俺がそう言うと、姫の瞳が感情の揺らぎを見せた。

その表情は、俺が『朧』と呼んだ時のように『熱』を孕んでいる。


―――釣れた、と、思った。


それに唇が緩む。


「…行きますか?」


…俺は、卑怯だな。

心臓が痛む。

自分の希望のくせにまるでそれが姫の欲求を先回りしたかのごとく振舞っている。

俺が傍にいたい、独り占めしたいだけなのに、それを隠して『親切』を演じている。

卑怯だ。

卑劣だ。

―――人間では、ない。


…けれど。


「…いいんですか?」


震えながら尋ねてくる愛しい者に、己の尊厳さえも壊される。

あなたが望むなら。

あなたが願うなら。

そして、あなたが手を伸ばさなくても。


「行きますか?」


俺は

あなたの『特別』になりたい。

< 118 / 120 >

この作品をシェア

pagetop