悲恋エタニティ
「…いいんですか?」


更にそう聞き返してくる姫が可愛くて、

可愛くて
可愛くて
可愛くて


…憐れで


俺は笑った。


「俺は『行くか?』と聞いたんです」


――春など、来るな。

俺の策に嵌った事を知らない姫は、いつか桜を見れるという感動に耳を紅潮させて微笑んだ。

そのあどけなさに喉が締め付けられ、胸が張り裂けそうになる。


――春など、来るな。


姫は知らない。

桜を楽しみにしろと餌にした目前の男が心の中で桜など咲くなと願っていることを。

姫は知らない。

春を待てと匂わせた目前の男が魂の底から春など来るなと命じていることを。

姫は知らない。

それほどまでに非道なモノに堕ちなければならないほど自分に焦がれるモノがいることを。

美しい、人だから。

美しく潔い、人だから。


「…行きたいです」


やっとの事で頷いた姿に微笑みを返しながら、俺はその微笑の汚さを恥じる。

この微笑みは姫にどう映るのだろう。

優しく?

温かく?

甘く?


…こんなにも、黒いのに。


相容れない白と黒。

潔と濁。

叩きつけられる、『不相応』。


それに眩み、息を吐けば邪まな恋情があふれそうだったので呼吸を止めた。

嗚呼、哀しい。

哀しい、哀しい、


……嬉しい。


――春など、来るな。

止まれ、世界よ。


簡潔明瞭なこの祈りの言葉は、まるで愛の告白のようだ。

決して叶わない思い。

だからこそそれは、永遠に告げられ続ける。

永遠に乞われ続ける。


春など、来るな。

時よ、止まれ。


…愛している。


でも姫は桜を望み
春を願い、

俺の希望を打ち砕く。
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