貴方の愛に捕らわれて
自室に戻ろうと玄関で靴を脱いでいると、夕飯の買い物に行く藤野さんとすれ違った。
「……組員に媚びて早くも女主人気取りとは」
すれ違いざま、囁くように吐かれた言葉に凍りついた。
その場に立ち竦む私の横を、何食わぬ顔で通り過ぎて行く藤野さん。
どれぐらいそうしていたのか。
玄関から動かない私を不審に思ったんだろう。不意に後ろから「何がありました」と声を掛けられ、びくりと体が跳ねた。
振り返ると、そこには眉をひそめた佐武さんが立っていた。
まるで呪縛が解けたように、バクバクと激しく鼓動を刻む心臓。
浅い呼吸を繰り返しながら平静を装う私は、佐武さんの言葉が先ほどの「どうしました」とは違って、何かを察したような問い掛けになっていたことに、気づく余裕もなかった。